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◎コロタイプ Collotype とは?

Posted by takumi suzuki on 25.2012 【コロタイプとは? what is a collotype?】   4 comments   0 trackback
Eadweard Muybridge 'Animal Locomotion' c.1887
エドワード・マイブリッジ Eadweard Muybridge "Animal Locomotion" 1887年

コロタイプ Collotype をご存じない方、あるいは名前だけは聞いたことあるけどどんなものなの?という方に知っていただくために簡単にコロタイプの説明してみます(詳しくは別カテゴリーをアップ予定)

コロタイプは約150年前に発明された写真の古典印画技法である

コロタイプは、写真術草創期の1855年にアルフォンス・ポアトヴァン Alphonse Poitevin(1819-1882 仏)によってその原理が発見され(*1)、1868年ヨセフ・アルベルト Joseph Albert(1825-1886 独)で実用化された顔料(ピグメント)による写真印画技法です(*2)。最近では古典印画技法(オルタナティブ・プロセス Alternative Photographic Process)と呼ばれるもののひとつにあたります。
*1:英での特許取得年。前年の1854年にはこの原理で最初の印刷物を得ていた。
*2:バイエルンでの特許取得年。前年の1867年にミュンヘンでコロタイプ印刷所を開設している。
いずれも『日本コロタイプ史』(発行/全日本コロタイプ印刷組合 1981年)の記載に準拠


Joseph Albert 1850
ヨセフ・アルベルト Joseph Albert 1850年頃

作品としては、上にあげたエドワード・マイブリッジ Eadweard Muybridge(1830-1904 英/米)の連続写真シリーズ 《Animal Locomotion》がよく知られています。先ごろ映画にもなったので名前は聞いたことある方も多いかもしれません映画「マイブリッジの糸」公式HP

当時の写真印画は画像の保存性が低く、次第に退色変色する欠点がありました。それを補うために顔料を用いる様々な印画方法が考案されましたが、そのなかで確立された技法のひとつがコロタイプです。これによって高い保存性を獲得しただけでなく、ひとたび版に顔料を入れると版画の要領で多数のプリントが制作可能なことから、精緻な印刷技法として発展していくこととなりました。世界最古の写真印刷技法と呼ばれる所以です(詳しくは 東京都写真美術館 金子隆一先生「コロタイプ150年の歩み――日本はコロタイプの国である」をアップしました)

ゼラチンによって表現される連続諧調

コロタイプの「コロ」とは「膠(にかわ)」すなわち「ゼラチン」のことです。「コラーゲン」などと同じギリシャ語で「膠」を指す"kolla"を語源とします。つまりコロタイプは「ゼラチン版」という意味で、この名称は1889年パリで開催された国際フォトグラフィー会議で採用されたました。ドイツでは「光による印刷」という意味の"リヒトドルック Lichtdruck"と呼ばれ、日本ではガラス板を使うことから"玻璃版"とも呼ばれます。

コロタイプはポアトヴァンの発見した「感光液を含んだゼラチンは光に当たると硬化する」という性質を利用しています。そのプロセスは次の通りです。

①感光液を含んだゼラチンを塗布したガラス板に写真のネガフィルムを密着させ紫外線に当てる(露光)。
②光の透過量に応じてゼラチンが硬化し、画像がそのままゼラチン版に焼き付けられる。
③ゼラチンは水を与えると膨張するが、硬化した部分は水分を含まず膨張しない。つまり画像が光の透過量によってゼラチンの硬化度合に置き換えられ、さらに水分を与えることで硬化度合がゼラチンの膨潤度合という凸凹に置き換えられる。
④シャドー部は深い谷、ハイライト部は浅い谷となり、そのなめらかに連続する谷の深さに応じて油性のインキが入る。
⑤これを紙に転写すると、フィルムの持つ豊かな諧調そのままの画像がプリントされる。

次にこのプロセスをもう少し詳しく見ていきましょう。

コロタイプのプロセス 【動画】

【製版】
ネガ
ネガ(レタッチ作業)

コロタイプするネガを用意します。ゼラチン版に密着露光するため、プリントするサイズと同じ大きさのネガが必要です。必要に応じてネガの修正作業(レタッチ)を行います。この工程を「製版」と呼びます。多色刷コロタイプの場合は、色数と同じ枚数のネガが必要となります(別項「多色刷コロタイプ」アップします)

【刷版】
ゼラチン版1
ゼラチン版作成作業。感光液の入ったゼラチン溶液(黄色の液体)をガラス版の上にひく
ゼラチン版2
溶液を均等に広げる

ゼラチン版の作成と露光作業の工程を「刷版作業」と呼び、出来上がったゼラチン版を「刷版(さっぱん)」といいます。
厚さ約10㎜のガラス板に感光液の入ったゼラチン(重クロム酸塩とゼラチンの混合物)を塗布します。これを乾燥機で加熱し固めて、ゼラチン版が完成します。

露光1
下面がガラスになった箱の上にネガを置き、その上にゼラチン版を密着して固定する。
露光2
箱を反転するとガラス面が上部になり、ゼラチン版の上にネガが置かれた状態になる。上から紫外線を当て露光する。
水洗
水洗して感光液を流した後、乾燥さす。

出来上がったゼラチン版の上に製版の終わったネガを置き紫外線で露光します。これによってネガの画像がゼラチン版に焼き付けられます。

【印刷】
印刷機
円圧式のコロタイプ印刷機
印刷1
印刷機に水を含ませて膨潤させたゼラチン版(刷版)を取り付ける(写真は墨インキが入った状態)

露光・水洗して一度乾燥させたゼラチン版(刷版)をふたたび水に浸してゼラチンを膨潤させます。

総合倍率5.0倍 視野経42.0mm
ゼラチン版の拡大(総合倍率5.0倍 視野経42.0mm)
総合倍率48.0倍 視野経4.4mm
さらに拡大(総合倍率48.0倍 視野経4.4mm)
拡大
上の画像をアップしたもの。ゼラチンの皺(レチキレーション)が確認できる。
レチキレーション

ゼラチン版を膨潤させるとゼラチンに「レチキレーション」と呼ばれる微細な皺が発生します。この皺にインキが入り込みます。ゼラチンの硬化度合にこの皺の深度が比例します。

ネガとゼラチン版

コロタイプは水と油の関係性を利用した「平版」の印刷方式です。そして、このレチキレーションの皺があることで「凹版」の特質も兼ね備えています。
ネガの白い部分(シャドー部)は光を良く通すのでゼラチン版が硬化し、水を含まないのでインキが付着します。また膨潤しないので深い凹部ができ、インキがたくさん入ります。
ネガの黒い部分(ハイライト部)は光を通さないのでゼラチン版が硬化せず、水をよく含むので油分を反発しインキが付着しません。またよく膨潤するので浅い凹部となりインキ量も少なくなります。

ゼラチン版の断面

版式による表現の違い
オフセット25倍
オフセット25倍:4色の網点による表現。拡大するとドットが確認できる。
\インクジェット25倍
インクジェット25倍:4色(+補色)の微細なドットによる表現。墨色も4色で表現するため、ほかの色の影響が出る場合もある(色浮)。
コロタイプ25倍
コロタイプ25倍:墨色は墨のインキのみで表現。エッジもシャープに出ている。

印刷2
インキ盤の上にをヘラでインキを伸ばしいれる。インキがローラーを介してゼラチン版に付着する。
印刷3
一枚ずつ紙を手差しする。
印刷4
円胴が回転し、ゼラチン版の上をプレスしながら紙が反対側に出てくる。

ゼラチン版の準備が整うと、インキ出しを行い適正な調子が出るまで試刷りを繰り返します。機械を操作するオペレーターと紙を手差しする助手の二人一組で作業を行います。1色を印刷するのに2回紙を機械に通します(二度刷)。これはコロタイプ特有の豊かな連続諧調を引き出すため、一度に濃く刷るのではなく浅く2回刷り重ねるのです。

版の調整作業
数十枚印刷するとゼラチン版を拭き、再び水分を与えて版を適正な状態に保つ

数十枚ごとにゼラチン版を拭き、再度水分を与えて版の調子を整えます。このように印刷と版の調整作業を繰り返していきますので、機械は動いているときよりも止まっていることのほうが多いくらいです。ゼラチン版は耐刷性が低く、1版あたり300枚程度しか刷れません。たとえば500部印刷するときは、同じ版をふたつ用意します。

繰り返して行う版の調整、1枚ずつの紙の手差し、2度刷り、など非常に手間暇がかかるため、1日500枚~1000枚程度しか印刷することができません。ですが職人の技と感性に支えられたコロタイプならではの印刷表現は、効率だけでは測りきれない他に代えがたい魅力があると思っています。

プロフィール

takumi suzuki

Author:takumi suzuki
【コロタイプの過去・現在・未来。創業明治20年の京都 便利堂が100年以上にわたって続けているコロタイプ工房より最新の情報をお届けします】
Japanese:www.benrido.co.jp
English:www.benrido-collotype.today

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