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サイモン・ベーカー氏特別インタビュー
「写真界で起こっている変化によりコロタイプに新たな重要性が生まれたのです」
於 便利堂コロタイプギャラリー 2013/9/24

東京フォト(9/27-30)で開催された特別展示「車窓からの眺め」のキュレーションで来日中のテート・モダン、写真キュレーターのサイモン・ベーカー氏が、便利堂コロタイプ工房を訪ねてくれました。2011年の来社に続き、2回目の訪問となります。前回はあいにく台風の来襲に遭い、翌日の工房見学がキャンセルとなってしまって残念な思いをしました。今年も台風が多く、二の舞になるのを心配していましたが、うまい具合に前の週に台風18号が通り過ぎてくれ、おかげで快晴にも恵まれました。
ベーカー氏は、それまで写真部門がなかったテート・モダンに2009年に招かれ、一躍同館の写真部門の評判を高めたことで有名です。日本の写真にも造詣が深く、コロタイプについても高く評価してくれています。ベーカー氏は『写真は物質だということを忘れてはいけない』といいます。プリントや印刷物としての最終的に物質化された状態にクオリティがなければいけないというのが彼の持論です。その彼がコロタイプをどのように見ているのか、この機会にインタビューをお願いしたところ快諾いただきました。
これに先立つ8月にロンドンでもベーカー氏にお会いしていたのですが、その時彼に提案されたのがコロタイプのコンペティションを開催することでした。私も同様の企画をずいぶん以前より思い描いていたので、意気投合し、「審査員、やってくれます?」「もちろん」ということで、具体的に企画が進むこととなりました。今回のインタビュー映像は、このコンペティションのプロモーションにも活用する予定です。コンペの詳細については、またあらためてアップしたいと思います。
◆
お名前と職業を教えてください。
サイモン・ベーカーSimon Bakerです。ロンドンにある英国国立美術館テートモダンTete Modern、フォトグラフィー・国際美術部門キュレーターです。
歴史的な写真印画技法という観点から見たコロタイプの重要性は何ですか?
コロタイプは主に19世紀末に関連づけられている歴史的な印画技法です。当時は、質の高い美術品の複製画像を印刷する革命的な技法として現在よりも広く普及していました。現在でも非常に美しく魅力的な複製を印刷できますが、あまり一般的ではなくなり、専門的な技術と捉えられています。
コロタイプ独特の魅力や美しさとは何ですか?
コロタイプには非常に特別な美しさがあります。光と陰のグラデーションが非常に繊細に表現され、優れた職人であれば深い黒やハイライトの見え方をコントロールすることができるのです。このことから美術品の複製画像の印刷に使われてきました。発明された当初は非常に忠実に複製できる印刷技法として注目を浴びました。

昨今のデジタル社会にコロタイプはどのように溶け込んでいますか?
現在、写真界全体に非常に興味深い現象が起こっています。デジタル技術の発展とアナログ印画に使われる材料の減少により、写真プリントの均一化が進んでいるのです。昔に比べると印画紙の種類が遥かに少なくなっており、プリントの際に昔ほど繊細な変化を与えられなくなってきました。先端を行く写真家の多くは、お気に入りの印画紙や薬品を蓄えていますが、その他の写真家は皆同じ印画紙を使用する他なく、プリントスタイルが一様になってきているのです。
また、コロタイプやフォトグラビア技法が、現在普及している印刷複製技法に比べて希少になりました。これは19世紀末とは正反対の事態です。当時は多種類の印画紙や現像の方法はありましたが、写真印刷技術は数種しか存在しませんでした。それに比べ現在では写真プリントに使われる材料は減少しましたが、コロタイプのようにとても珍しい技法が残っています。写真界で起こっている変化によりコロタイプに新たな重要性が生まれたのです。

工房見学だけでなく、今年よりはじめたワークショップも体験していただきました。
便利堂の工房を見学なさり実際にコロタイププリントに挑戦されましたがその経験はいかがでしたか?
非常に素晴らしい経験でした。まるで100年前の工房にいるかのようでした。手作業の巧妙さと設備のバランスには目も見張るものがあり、それが非常に正確な作業を可能にしていました。すべてを目で判断し、細部に細心の注意を払い、画像の様々な濃淡のバランスを得るために何度もプリントを機械に通すなど驚く程の技術を必要とし、フォトショップのように1つの設定を作ると全てが同じように出てくるのとは大変違います。今回、熟練技師の監督のもとコロタイププリントに挑戦することができ非常にラッキーでした。
この経験からも、現代にコロタイプのような印刷技法の居場所があることが分かりました。コロタイプの持つ不動の美しさや複雑さ、様々な奥行きや色彩に反応できる力は現在でも重要です。現代の写真作品と、プリント過程に熟達している技法との融合は非常に独特なものであり、それが未だに可能な場所は世界中を見てもほんのわずかにしか存在していません。

今年あらたに作成した瀧澤明子氏の「Najima」シリーズのコロタイププリントを見るベーカー氏
この度便利堂と提携して行われるコンペティションでは入賞者の作品は便利堂でコロタイプとしてプリントされますね。この古典的な印画技法を用いてプリントすることになる現代の写真家には何を求めていますか?
便利堂を見学した際、非常に有名な日本人写真家(植田正治や細江英公など)の作品やアメリカ人写真家の作品を見ました。とても古典的、歴史的あるいは存命の有名な写真家の作品で、それぞれの作品からまた違ったコロタイプを発見できます。また便利堂には瀧澤明子などの若手の写真家の作品もありました。まだ若手である彼女の作品を見ると、また違ったコロタイプの感性を発見できます。
このように、便利堂のような伝統や歴史的技法に深く関わっている工房では、自分のスタイルを模索している彼女の作品にも、熟練技師の目をもって何かを与えられるということは非常に興味深いと思います。これが、過去にも現在にもマスタープリンターと一緒に写真のプリントをする、特にカラー写真のプリントをする写真家が多い理由だと思います。マスタープリンターと共同作業することによって作品について様々なアドバイスがもらえるからです。

ロンドン・大和ファウンデーションで開催された瀧澤明子氏の個展 2012/1/18-3/1
展示作品には「Osorezan, Goshogwara」シリーズのコロタイププリント8点も展示された(写真左の壁面)。⇒作品詳細はこちら
このコンペの受賞者は提出した画像のみで選ばれるのですか? それともコロタイプ技法との相性も考慮されるのですか?
若手の写真家を便利堂に招待し便利堂のスタッフの方々と作業する利点は、彼らエキスパート達とアイデアや専門知識を交換できることです。自分の作品をまだ模索していて、印画技法に興味があり、もしかするとすでに様々なモノクロプリント技法やカラープリント技法を試行錯誤しているような人には素晴らしい経験となることと思います。また、この経験の最大の利点は、通常ではあり得ない便利堂の熟練技師と経験を共にできることです。このコンペに入選するとコロタイプで素晴らしい作品を作るだけでなく、自分の作品の制作を新たな視点で見る機会も与えられると思います。
写真の世界も競争率の高い分野となってきていますが、若手の写真家に何かアドバイスをお願いします。
私からのアドバイスは、まさに便利堂で行われていることをすることです。過去に何が起こったのかを知り、それと同時に今自分たちの周りで何が起こっているのかを注意深く考えること、プロセスや材料に興味を持つことです。写真を、ただ写真を撮るだけのこととして捉えるのではなく、カメラを使い写真を撮りそれをプリントする、あるいは印刷物として出版もしくは興味をそそる方法で展示するという一連のプロセスとして捉えていただきたい。すでにそう捉えているのであれば正しい方向へ向かっているということです。
◆
インタビューでも言及されていた瀧澤明子氏のコロタイププリントとして、現在3シリーズが完成しています。
「Osorezan, Goshogawara」8点 エディション10
「Najima」7点 エディション15 ⇒作品詳細
「Headland」5点 エディション15 ⇒作品詳細
「Najima」と「Headlnd」は、今月末からパリで開催されるフォトフェア、Fourth images(10/31-11/5)で 初めてお披露目されます。

「Najima」コロタイプ・ポートフォリオ
■そのほかのベーカー氏のインタビュー記事
⇒「サイモン・ベーカー、日本のフォトグラフィーやフォトブックスについて語る」(BLOUIN ARTINFO)
⇒「入場者数世界一を誇る美術館のキュレーターが語る写真のこれから──サイモン・ベーカー(キュレーター)」(GQ MEN)
於 便利堂コロタイプギャラリー 2013/9/24

東京フォト(9/27-30)で開催された特別展示「車窓からの眺め」のキュレーションで来日中のテート・モダン、写真キュレーターのサイモン・ベーカー氏が、便利堂コロタイプ工房を訪ねてくれました。2011年の来社に続き、2回目の訪問となります。前回はあいにく台風の来襲に遭い、翌日の工房見学がキャンセルとなってしまって残念な思いをしました。今年も台風が多く、二の舞になるのを心配していましたが、うまい具合に前の週に台風18号が通り過ぎてくれ、おかげで快晴にも恵まれました。
ベーカー氏は、それまで写真部門がなかったテート・モダンに2009年に招かれ、一躍同館の写真部門の評判を高めたことで有名です。日本の写真にも造詣が深く、コロタイプについても高く評価してくれています。ベーカー氏は『写真は物質だということを忘れてはいけない』といいます。プリントや印刷物としての最終的に物質化された状態にクオリティがなければいけないというのが彼の持論です。その彼がコロタイプをどのように見ているのか、この機会にインタビューをお願いしたところ快諾いただきました。
これに先立つ8月にロンドンでもベーカー氏にお会いしていたのですが、その時彼に提案されたのがコロタイプのコンペティションを開催することでした。私も同様の企画をずいぶん以前より思い描いていたので、意気投合し、「審査員、やってくれます?」「もちろん」ということで、具体的に企画が進むこととなりました。今回のインタビュー映像は、このコンペティションのプロモーションにも活用する予定です。コンペの詳細については、またあらためてアップしたいと思います。
◆
お名前と職業を教えてください。
サイモン・ベーカーSimon Bakerです。ロンドンにある英国国立美術館テートモダンTete Modern、フォトグラフィー・国際美術部門キュレーターです。
歴史的な写真印画技法という観点から見たコロタイプの重要性は何ですか?
コロタイプは主に19世紀末に関連づけられている歴史的な印画技法です。当時は、質の高い美術品の複製画像を印刷する革命的な技法として現在よりも広く普及していました。現在でも非常に美しく魅力的な複製を印刷できますが、あまり一般的ではなくなり、専門的な技術と捉えられています。
コロタイプ独特の魅力や美しさとは何ですか?
コロタイプには非常に特別な美しさがあります。光と陰のグラデーションが非常に繊細に表現され、優れた職人であれば深い黒やハイライトの見え方をコントロールすることができるのです。このことから美術品の複製画像の印刷に使われてきました。発明された当初は非常に忠実に複製できる印刷技法として注目を浴びました。

昨今のデジタル社会にコロタイプはどのように溶け込んでいますか?
現在、写真界全体に非常に興味深い現象が起こっています。デジタル技術の発展とアナログ印画に使われる材料の減少により、写真プリントの均一化が進んでいるのです。昔に比べると印画紙の種類が遥かに少なくなっており、プリントの際に昔ほど繊細な変化を与えられなくなってきました。先端を行く写真家の多くは、お気に入りの印画紙や薬品を蓄えていますが、その他の写真家は皆同じ印画紙を使用する他なく、プリントスタイルが一様になってきているのです。
また、コロタイプやフォトグラビア技法が、現在普及している印刷複製技法に比べて希少になりました。これは19世紀末とは正反対の事態です。当時は多種類の印画紙や現像の方法はありましたが、写真印刷技術は数種しか存在しませんでした。それに比べ現在では写真プリントに使われる材料は減少しましたが、コロタイプのようにとても珍しい技法が残っています。写真界で起こっている変化によりコロタイプに新たな重要性が生まれたのです。

工房見学だけでなく、今年よりはじめたワークショップも体験していただきました。
便利堂の工房を見学なさり実際にコロタイププリントに挑戦されましたがその経験はいかがでしたか?
非常に素晴らしい経験でした。まるで100年前の工房にいるかのようでした。手作業の巧妙さと設備のバランスには目も見張るものがあり、それが非常に正確な作業を可能にしていました。すべてを目で判断し、細部に細心の注意を払い、画像の様々な濃淡のバランスを得るために何度もプリントを機械に通すなど驚く程の技術を必要とし、フォトショップのように1つの設定を作ると全てが同じように出てくるのとは大変違います。今回、熟練技師の監督のもとコロタイププリントに挑戦することができ非常にラッキーでした。
この経験からも、現代にコロタイプのような印刷技法の居場所があることが分かりました。コロタイプの持つ不動の美しさや複雑さ、様々な奥行きや色彩に反応できる力は現在でも重要です。現代の写真作品と、プリント過程に熟達している技法との融合は非常に独特なものであり、それが未だに可能な場所は世界中を見てもほんのわずかにしか存在していません。

今年あらたに作成した瀧澤明子氏の「Najima」シリーズのコロタイププリントを見るベーカー氏
この度便利堂と提携して行われるコンペティションでは入賞者の作品は便利堂でコロタイプとしてプリントされますね。この古典的な印画技法を用いてプリントすることになる現代の写真家には何を求めていますか?
便利堂を見学した際、非常に有名な日本人写真家(植田正治や細江英公など)の作品やアメリカ人写真家の作品を見ました。とても古典的、歴史的あるいは存命の有名な写真家の作品で、それぞれの作品からまた違ったコロタイプを発見できます。また便利堂には瀧澤明子などの若手の写真家の作品もありました。まだ若手である彼女の作品を見ると、また違ったコロタイプの感性を発見できます。
このように、便利堂のような伝統や歴史的技法に深く関わっている工房では、自分のスタイルを模索している彼女の作品にも、熟練技師の目をもって何かを与えられるということは非常に興味深いと思います。これが、過去にも現在にもマスタープリンターと一緒に写真のプリントをする、特にカラー写真のプリントをする写真家が多い理由だと思います。マスタープリンターと共同作業することによって作品について様々なアドバイスがもらえるからです。

ロンドン・大和ファウンデーションで開催された瀧澤明子氏の個展 2012/1/18-3/1
展示作品には「Osorezan, Goshogwara」シリーズのコロタイププリント8点も展示された(写真左の壁面)。⇒作品詳細はこちら
このコンペの受賞者は提出した画像のみで選ばれるのですか? それともコロタイプ技法との相性も考慮されるのですか?
若手の写真家を便利堂に招待し便利堂のスタッフの方々と作業する利点は、彼らエキスパート達とアイデアや専門知識を交換できることです。自分の作品をまだ模索していて、印画技法に興味があり、もしかするとすでに様々なモノクロプリント技法やカラープリント技法を試行錯誤しているような人には素晴らしい経験となることと思います。また、この経験の最大の利点は、通常ではあり得ない便利堂の熟練技師と経験を共にできることです。このコンペに入選するとコロタイプで素晴らしい作品を作るだけでなく、自分の作品の制作を新たな視点で見る機会も与えられると思います。
写真の世界も競争率の高い分野となってきていますが、若手の写真家に何かアドバイスをお願いします。
私からのアドバイスは、まさに便利堂で行われていることをすることです。過去に何が起こったのかを知り、それと同時に今自分たちの周りで何が起こっているのかを注意深く考えること、プロセスや材料に興味を持つことです。写真を、ただ写真を撮るだけのこととして捉えるのではなく、カメラを使い写真を撮りそれをプリントする、あるいは印刷物として出版もしくは興味をそそる方法で展示するという一連のプロセスとして捉えていただきたい。すでにそう捉えているのであれば正しい方向へ向かっているということです。
◆
インタビューでも言及されていた瀧澤明子氏のコロタイププリントとして、現在3シリーズが完成しています。
「Osorezan, Goshogawara」8点 エディション10
「Najima」7点 エディション15 ⇒作品詳細
「Headland」5点 エディション15 ⇒作品詳細
「Najima」と「Headlnd」は、今月末からパリで開催されるフォトフェア、Fourth images(10/31-11/5)で 初めてお披露目されます。

「Najima」コロタイプ・ポートフォリオ
■そのほかのベーカー氏のインタビュー記事
⇒「サイモン・ベーカー、日本のフォトグラフィーやフォトブックスについて語る」(BLOUIN ARTINFO)
⇒「入場者数世界一を誇る美術館のキュレーターが語る写真のこれから──サイモン・ベーカー(キュレーター)」(GQ MEN)
写真家・桑嶋維氏のロンドンでの個展でコロタイプ作品を出品!
Tsunaki Kuwashima's an Art Exhibition
The Eternal Idol 「久遠―永遠のアイドル」
2013/7/27-8/28 @UNION Gallery, London

新進の写真家・桑嶋維(くわしま・つなき)さんの写真展が、今週末27日よりロンドンのUnion Gallery (94 Teesdale Street London E2 6PU) http://www.union-gallery.com/ではじまります。桑嶋さんは、広告、雑誌の撮影をこなす傍ら、2005年以降から『闘牛島・徳之島』(平凡社)、『朱殷』(求龍堂)(いずれも大英博物館、V&A美術館収蔵)などの写真集の発表や執筆活動を展開されています。
「出版をはじめ、エッセイの連載や個展をとおして作家としての視線をレンズの向こうに貫きながら、日本の写真美術界に新たな地平を切り開こうとしている、現在もっとも注目したい写真家の一人である。」(山梨県立美術館 学芸課長 向山富士雄氏の推薦文より)

コロタイプ作品の校正刷
桑嶋さんとご縁が始まったのは、昨年9月に日大芸術学部で開催された「オルタナティブ・プロセス国際シンポジウム(Alternative Processes International Symposium 2012 Tokyo)」で行ったコロタイプワークショップに桑嶋さんが参加されたことがきっかけでした⇒詳しくはこちら。

コロタイプを体験中の桑嶋氏@APIS
桑嶋さんは、平成25年度の大木記念美術作家助成基金の「海外美術展」対象作家として選出され、今回のロンドンでの個展開催となりました。便利堂は「Special Artist Support」として参画しています。桑嶋さんをはじめ、日本の若い作家がコロタイプの表現力に魅力を感じてくださり、海外で作品を発表するにあって、日本の写真家として日本独自の表現技術を用いたいと考えていたけるのは大変ありがたいことだと思っており、我々もこうしたアーティストの方々の活動の後押しをできる範囲ですが取り組んでいきたいと考えています。

基金授与式の様子。山梨県立美術館館長より「桑嶋維の作品は写真界でなく芸術界に一石を投じる作品です」とのお言葉を頂ただいたとのこと。
本展は、山梨で発掘された縄文土器、土偶をモチーフとした写真展です。土器や土偶を桑嶋さんは「縄文人たちから僕たちへの文字の無い手紙」と呼びます。「無文字社会の縄文時代においては、「伝える」ということは決して説明することではなく、考えさせると言う事なのだろう。」女性をモデルとした土偶。そこに生命の「誕生」と「死」を繰り返しながら命をつないでいくことへの「祈り」と「責務」、縄文と現代をつなぎ未来への指針となる「文字ではないメッセージ」を桑嶋さんは見出します。

コロタイプ作品はこんなキューブに入ります
展示のメイン作品となるのが45センチ角にコロタイプでプリントされた作品です。作品名は《南アルプスヴィーナス》。土偶の顔部分がアップになったカラー作品と、全身をネガ反転して表現したモノクロ作品の2点1セットで、上記のようなスチールのキューブに両面展示されます。目の部分に残った朱の色の表現に苦心しました。エディションは12部限定。

展示作業風景1
このキューブ以外にも、マネキンの頭に土偶の顔の写真がのった展示など、とてもユニークなものになるそうです。26日は内覧会、8月9日はレセプション、21・22日はセインズベリー日本藝術研究所でワークショップが予定されています。9日のレセプションには参加したいと思っていますので、また現地での様子をレポートできればと思っています。

展示作業風景2
桑嶋さんについて詳しくは
⇒桑嶋さんのHP
⇒桑嶋さんのインタビュー
The Eternal Idol 「久遠―永遠のアイドル」
2013/7/27-8/28 @UNION Gallery, London

新進の写真家・桑嶋維(くわしま・つなき)さんの写真展が、今週末27日よりロンドンのUnion Gallery (94 Teesdale Street London E2 6PU) http://www.union-gallery.com/ではじまります。桑嶋さんは、広告、雑誌の撮影をこなす傍ら、2005年以降から『闘牛島・徳之島』(平凡社)、『朱殷』(求龍堂)(いずれも大英博物館、V&A美術館収蔵)などの写真集の発表や執筆活動を展開されています。
「出版をはじめ、エッセイの連載や個展をとおして作家としての視線をレンズの向こうに貫きながら、日本の写真美術界に新たな地平を切り開こうとしている、現在もっとも注目したい写真家の一人である。」(山梨県立美術館 学芸課長 向山富士雄氏の推薦文より)

コロタイプ作品の校正刷
桑嶋さんとご縁が始まったのは、昨年9月に日大芸術学部で開催された「オルタナティブ・プロセス国際シンポジウム(Alternative Processes International Symposium 2012 Tokyo)」で行ったコロタイプワークショップに桑嶋さんが参加されたことがきっかけでした⇒詳しくはこちら。

コロタイプを体験中の桑嶋氏@APIS
桑嶋さんは、平成25年度の大木記念美術作家助成基金の「海外美術展」対象作家として選出され、今回のロンドンでの個展開催となりました。便利堂は「Special Artist Support」として参画しています。桑嶋さんをはじめ、日本の若い作家がコロタイプの表現力に魅力を感じてくださり、海外で作品を発表するにあって、日本の写真家として日本独自の表現技術を用いたいと考えていたけるのは大変ありがたいことだと思っており、我々もこうしたアーティストの方々の活動の後押しをできる範囲ですが取り組んでいきたいと考えています。

基金授与式の様子。山梨県立美術館館長より「桑嶋維の作品は写真界でなく芸術界に一石を投じる作品です」とのお言葉を頂ただいたとのこと。
本展は、山梨で発掘された縄文土器、土偶をモチーフとした写真展です。土器や土偶を桑嶋さんは「縄文人たちから僕たちへの文字の無い手紙」と呼びます。「無文字社会の縄文時代においては、「伝える」ということは決して説明することではなく、考えさせると言う事なのだろう。」女性をモデルとした土偶。そこに生命の「誕生」と「死」を繰り返しながら命をつないでいくことへの「祈り」と「責務」、縄文と現代をつなぎ未来への指針となる「文字ではないメッセージ」を桑嶋さんは見出します。

コロタイプ作品はこんなキューブに入ります
展示のメイン作品となるのが45センチ角にコロタイプでプリントされた作品です。作品名は《南アルプスヴィーナス》。土偶の顔部分がアップになったカラー作品と、全身をネガ反転して表現したモノクロ作品の2点1セットで、上記のようなスチールのキューブに両面展示されます。目の部分に残った朱の色の表現に苦心しました。エディションは12部限定。

展示作業風景1
このキューブ以外にも、マネキンの頭に土偶の顔の写真がのった展示など、とてもユニークなものになるそうです。26日は内覧会、8月9日はレセプション、21・22日はセインズベリー日本藝術研究所でワークショップが予定されています。9日のレセプションには参加したいと思っていますので、また現地での様子をレポートできればと思っています。

展示作業風景2
桑嶋さんについて詳しくは
⇒桑嶋さんのHP
⇒桑嶋さんのインタビュー
コロタイプとインクジェット(アーカイバルピグメントプリント)の写真作品の比較展示
KG+ KYOTOGRAPHIEサテライト展
荻野NAO之写真展「太秦」
2013.4.25-5.7 3F PROJECT ROOM


「京都グラフィー KYOTOGRAPHIE」サテライト展「KG+」での便利堂関連の報告です。柳馬場御池下ルにある3F PROJECT ROOMで開催された「荻野NAO之写真展『太秦』」において、コロタイプとアーカイバルピグメントプリントで制作されたプリントが比較展示がされました。⇒展覧会記事(yahooニュース)

会場風景
荻野さんは1975年生まれの写真家で、国内外で幅広く活躍されています⇒荻野NAO之公式サイト。今回の展覧会では、京都・太秦の東映京都撮影所を舞台に撮影を敢行し、そこに漂う「地霊の気(ケ)」を留めた写真を、荻野さん自らの手でアーカイバルピグメントプリントとして24点展示されました。その作品群から2点を選び、まったくおなじデータからおなじサイズに、便利堂がコロタイププリントを、荻野さんがアーカイバルピグメントプリントを制作し、並べて展示しました。

中央の4点がコロタイプとアーカイバルピグメントプリントの比較展示
また、4月29日には荻野さんと便利堂コロタイプ工房長・山本修のトークイベントをおこないました。 ふたりのトーク・テーマは「コロタイプとアーカイバルピグメントプリントそれぞれの表現力」でしたが、終始コロタイプの話題で展開。コロタイプの技法説明から、ドキュメント風のビデオをもちいて荻野作品のコロタイププリントをめぐる完成までの失敗や葛藤のプロセス(刷り重ねの限界、雁皮紙という選択、薬品による調整の効果など)披露まで、ご説明の時間をいただいて充実の内容となりました。

トークイベント風景。荻野さん(左)と山本
会場からは「荻野さんには失礼ながら、コロタイプのほうに強くひかれた。これまでは、コロタイプに対して精緻な写真プリントとしてのやや機械的なイメージをもっていたが、じっさい目にして、また話を聞いて認識は逆転し、絵画的な要素を非常に強く感じた」との声もあがりました。オーディエンスは15~20人ほど。画家やキュレイター、漆職人、撮影所の美術部員、教科書編集者など多彩な方々が集まり、イベント終了後も、それぞれの関心をもって作品や持参したコロタイプの刷本を興味深く鑑賞し、工房長への質問・意見交換も相次ぎ、盛況のうちに散会しました。

比較展示(この画像ではわかりませんねw) 「桜」(仮題)
左がアーカイバルピグメントプリント、右がコロタイプ。いずれも和紙にプリントされており、前者はきら引きのような光沢のある局紙、後者は黄色味のある越前の手漉き雁皮紙
コロタイプは、古い絵画や文書、歴史的資料の精緻な「複製」として認識されてきましたし、じっさいほとんどはそうした関連のお仕事です。が、そもそもは写真プリントのために生まれた技術。便利堂では、現代に生きる技術として、従来の表現には飽き足らないアーティストに、もっとコロタイプを利用してもらいたいと思っています。今回の試みもその一環です。荻野さんに今回の比較展示プロジェクトを振り返ってのコメントをいただきましたので、ご紹介します。(藤岡)

「部屋」(仮題)
◆
「比較展示プロジェクトを振り返って」荻野NAO之
【背景】
鈴木社長、山本工房長にはじめてお会いしたのは、京都ではなく、東京のAPIS 2012 Tokyo会場ででした。有り難いご縁でした。それからすぐ京都に戻ってきて、工房見学をさせていただきました。コロタイプの独特の存在感をヒシヒシと感じ、ぜひどこかでご一緒させていただきたいと願っておりました。
今回、KYOTOGRAPHIEのサテライトで写真展をさせていただくことになった際、これはぜひコロタイプとアーカイバルピグメントプリントの比較展示が実現できないかと思い立ち、ご一緒させていただけることになりました。
本当にありがとうございました。
比較展示を思いたった背景には以下の二点がありました。
一つには、出来上がったものを見るのではなく、自分の写真を通じて工房の職人さんたちと一緒に作り上げてゆく過程をご一緒させていただくことで、より一層コロタイプの良さや特徴が身にしみて分かるだろうということでした。
そしてもう一つは、同じ写真での比較をすることでこそ、それぞれの技法の特徴が浮き彫りにされて分かるだろうという思いがありました。これは、普段アーカイバルピグメントプリントのための用紙テストを同じ写真で比較していて実感したことでした。
【コロタイプ制作を経ての感想】
全体を通して感じたことは沢山あって短くは記せないのですが、ごくわずかに絞ってお伝えしますと・・・
まず制作プロセスの部分では、とにかく何を置いても職人さんの広大な範囲に渡るこだわりに接し、想像以上の表現の可能性について視野が開けたこと、これが大きな歓びでした。
写真のラボやプリンターにプリントを頼む場合でも、現像液や印画紙の種類についての豊富な知識と経験値によるアドバイスはいただけますが、ここでは、和紙ひとつにしてもそれぞれ異なった産地からそれぞれの紙の特徴を理解された上で、紙をすくところから依頼されています。
そして、インキ一つとっても市販のものは存在せず、どれも便利堂さんのためだけに調合されたインキを依頼のもと用意されています。紙にしろインキにしろ、ありものの取捨選択をされているのではなく、一つ一つ意図を持って、過去からの経験の蓄積を持って、用意されているわけなのです。
その分だけ素材に対する理解は深く、途中の試し刷りを拝見しながら素材のお話を伺いつつ、こちらの表現意図を組んでいただき、最終的なコロタイプの作品へと結像して下さいました。頭の中にあったイメージが、職人さんたちと素材の性質が絡み合って、蜃気楼が定着させるようにして現れていった感触は、今まで他で感じたことの無い表現に向かう不思議な感覚でした。
そしてついに出来上がったコロタイプは、想像を超えて深みを持ち、異様なものの存在感を漂わせていました。
驚いたことに、刷り上がりから1週間、2週間と時を経て、深みはいよいよ増していきました。あるお坊さんが、納品されたコロタイプ複製を毎年見られて、「一年一年深みが増してゆく」と仰ったと伺ったことがありましたが、そのことを目の前で実感いたしました。
デジタルカメラの時代になっても、アナログのコロタイプという表現方法が可能性の中にあるということは、本当にありがたいことだと改めて今回実感させていただきました。
どうもありがとうございました。
【比較展示での反応】
多くの方々が、熱心に比較されているコロタイプとアーカイバルピグメントプリントとキョロキョロしながら見比べていかれました。これは思った以上にみなさんがみなさん同じ仕草で見ていかれました。あまりに似た仕草えで、ユーモラスでもあるほどでした。
そして聞いたわけでもないのに、それぞれ口々にここが違うとか、それぞれの特徴を口にされていました。
一般的に多かった反応としては、コロタイプの方が柔らかく、アーカイバルピグメントプリントの方が硬めの表現だという感想でした。はじめは、なぜ同じものを二枚並べて掛けてあるのかと聞いてこられた方も、途中から「ああ、違う違う」と頷かれながら見ていかれました。
コロタイプの存在感を気に入って下さる方が多くいらっしゃいました。そして、その後、これはどういう技法なのか?と必ず聞いてこられました。横に置いてあった便利堂さんのミニパンフレットをお渡しするのですが、やはりトークイベントほどの理解はなかなか紙面から得るのは難しいようで、トークイベントの受け売りの説明でなんとかお茶を濁す程度しか私にはできず、そこが残念なところでもありました。
【トークイベントの感想】
今回のトークイベントは本当に盛りだくさんで、実際に刷るのに使っていただいた版を持ってきていただいたり、普段は見せることの無いであろう、途中過程で紙の表面が剥離してしまった失敗作や、和紙ごとの特徴が分かるサンプル、そして実際に刷っていただいていた際の、ドキュメンタリー映像まで上映していただきました。
山本工房長の映像に合わせたトークは、本当に素敵で、時々独特のユーモアが混ざり、来場者を笑いの渦に巻き込みつつ、コロタイプの制作現場とそのプロセスが現場を見ているかのように伝わって参りました。
コロタイプは恐らく版を作った後、唯一、刷の段階で諧調などをコントロールできる手法だというお話でしたが、実際の重たいガラス上のゼラチン版をもとに、どこの部分のゼラチンの硬さ柔らかさを、薬品を使いつつどう微調整して、最終的な写真の部分部分の諧調を出したのかなどご説明いただいたところは、特に貴重なお話だったと思います。
職人さんが指先でゼラチンの状態を感じ取り、身体でその時々の天候による温度湿度を感じ取り、いかにして刷りに導いているのかが伝わってくる素晴らしいトークイベントでした。実際に刷られて展示されているコロタイプを横に、トークを伺うことで、より一層コロタイプの深さと面白さ、可能性の大きさを実感させていただくことができたと感じています。
本当にありがとうございました。
◆
今回制作した荻野NAO之「太秦」よりコロタイププリント2点(仮題「桜」・「部屋」)は、各エディション20部、注文販売しております(すこしお時間はいただきます)。本紙(ブックマット装)65,000円、額入80,000円(各税別)です。
荻野NAO之写真展「太秦」
2013.4.25-5.7 3F PROJECT ROOM


「京都グラフィー KYOTOGRAPHIE」サテライト展「KG+」での便利堂関連の報告です。柳馬場御池下ルにある3F PROJECT ROOMで開催された「荻野NAO之写真展『太秦』」において、コロタイプとアーカイバルピグメントプリントで制作されたプリントが比較展示がされました。⇒展覧会記事(yahooニュース)

会場風景
荻野さんは1975年生まれの写真家で、国内外で幅広く活躍されています⇒荻野NAO之公式サイト。今回の展覧会では、京都・太秦の東映京都撮影所を舞台に撮影を敢行し、そこに漂う「地霊の気(ケ)」を留めた写真を、荻野さん自らの手でアーカイバルピグメントプリントとして24点展示されました。その作品群から2点を選び、まったくおなじデータからおなじサイズに、便利堂がコロタイププリントを、荻野さんがアーカイバルピグメントプリントを制作し、並べて展示しました。

中央の4点がコロタイプとアーカイバルピグメントプリントの比較展示
また、4月29日には荻野さんと便利堂コロタイプ工房長・山本修のトークイベントをおこないました。 ふたりのトーク・テーマは「コロタイプとアーカイバルピグメントプリントそれぞれの表現力」でしたが、終始コロタイプの話題で展開。コロタイプの技法説明から、ドキュメント風のビデオをもちいて荻野作品のコロタイププリントをめぐる完成までの失敗や葛藤のプロセス(刷り重ねの限界、雁皮紙という選択、薬品による調整の効果など)披露まで、ご説明の時間をいただいて充実の内容となりました。

トークイベント風景。荻野さん(左)と山本
会場からは「荻野さんには失礼ながら、コロタイプのほうに強くひかれた。これまでは、コロタイプに対して精緻な写真プリントとしてのやや機械的なイメージをもっていたが、じっさい目にして、また話を聞いて認識は逆転し、絵画的な要素を非常に強く感じた」との声もあがりました。オーディエンスは15~20人ほど。画家やキュレイター、漆職人、撮影所の美術部員、教科書編集者など多彩な方々が集まり、イベント終了後も、それぞれの関心をもって作品や持参したコロタイプの刷本を興味深く鑑賞し、工房長への質問・意見交換も相次ぎ、盛況のうちに散会しました。

比較展示(この画像ではわかりませんねw) 「桜」(仮題)
左がアーカイバルピグメントプリント、右がコロタイプ。いずれも和紙にプリントされており、前者はきら引きのような光沢のある局紙、後者は黄色味のある越前の手漉き雁皮紙
コロタイプは、古い絵画や文書、歴史的資料の精緻な「複製」として認識されてきましたし、じっさいほとんどはそうした関連のお仕事です。が、そもそもは写真プリントのために生まれた技術。便利堂では、現代に生きる技術として、従来の表現には飽き足らないアーティストに、もっとコロタイプを利用してもらいたいと思っています。今回の試みもその一環です。荻野さんに今回の比較展示プロジェクトを振り返ってのコメントをいただきましたので、ご紹介します。(藤岡)

「部屋」(仮題)
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「比較展示プロジェクトを振り返って」荻野NAO之
【背景】
鈴木社長、山本工房長にはじめてお会いしたのは、京都ではなく、東京のAPIS 2012 Tokyo会場ででした。有り難いご縁でした。それからすぐ京都に戻ってきて、工房見学をさせていただきました。コロタイプの独特の存在感をヒシヒシと感じ、ぜひどこかでご一緒させていただきたいと願っておりました。
今回、KYOTOGRAPHIEのサテライトで写真展をさせていただくことになった際、これはぜひコロタイプとアーカイバルピグメントプリントの比較展示が実現できないかと思い立ち、ご一緒させていただけることになりました。
本当にありがとうございました。
比較展示を思いたった背景には以下の二点がありました。
一つには、出来上がったものを見るのではなく、自分の写真を通じて工房の職人さんたちと一緒に作り上げてゆく過程をご一緒させていただくことで、より一層コロタイプの良さや特徴が身にしみて分かるだろうということでした。
そしてもう一つは、同じ写真での比較をすることでこそ、それぞれの技法の特徴が浮き彫りにされて分かるだろうという思いがありました。これは、普段アーカイバルピグメントプリントのための用紙テストを同じ写真で比較していて実感したことでした。
【コロタイプ制作を経ての感想】
全体を通して感じたことは沢山あって短くは記せないのですが、ごくわずかに絞ってお伝えしますと・・・
まず制作プロセスの部分では、とにかく何を置いても職人さんの広大な範囲に渡るこだわりに接し、想像以上の表現の可能性について視野が開けたこと、これが大きな歓びでした。
写真のラボやプリンターにプリントを頼む場合でも、現像液や印画紙の種類についての豊富な知識と経験値によるアドバイスはいただけますが、ここでは、和紙ひとつにしてもそれぞれ異なった産地からそれぞれの紙の特徴を理解された上で、紙をすくところから依頼されています。
そして、インキ一つとっても市販のものは存在せず、どれも便利堂さんのためだけに調合されたインキを依頼のもと用意されています。紙にしろインキにしろ、ありものの取捨選択をされているのではなく、一つ一つ意図を持って、過去からの経験の蓄積を持って、用意されているわけなのです。
その分だけ素材に対する理解は深く、途中の試し刷りを拝見しながら素材のお話を伺いつつ、こちらの表現意図を組んでいただき、最終的なコロタイプの作品へと結像して下さいました。頭の中にあったイメージが、職人さんたちと素材の性質が絡み合って、蜃気楼が定着させるようにして現れていった感触は、今まで他で感じたことの無い表現に向かう不思議な感覚でした。
そしてついに出来上がったコロタイプは、想像を超えて深みを持ち、異様なものの存在感を漂わせていました。
驚いたことに、刷り上がりから1週間、2週間と時を経て、深みはいよいよ増していきました。あるお坊さんが、納品されたコロタイプ複製を毎年見られて、「一年一年深みが増してゆく」と仰ったと伺ったことがありましたが、そのことを目の前で実感いたしました。
デジタルカメラの時代になっても、アナログのコロタイプという表現方法が可能性の中にあるということは、本当にありがたいことだと改めて今回実感させていただきました。
どうもありがとうございました。
【比較展示での反応】
多くの方々が、熱心に比較されているコロタイプとアーカイバルピグメントプリントとキョロキョロしながら見比べていかれました。これは思った以上にみなさんがみなさん同じ仕草で見ていかれました。あまりに似た仕草えで、ユーモラスでもあるほどでした。
そして聞いたわけでもないのに、それぞれ口々にここが違うとか、それぞれの特徴を口にされていました。
一般的に多かった反応としては、コロタイプの方が柔らかく、アーカイバルピグメントプリントの方が硬めの表現だという感想でした。はじめは、なぜ同じものを二枚並べて掛けてあるのかと聞いてこられた方も、途中から「ああ、違う違う」と頷かれながら見ていかれました。
コロタイプの存在感を気に入って下さる方が多くいらっしゃいました。そして、その後、これはどういう技法なのか?と必ず聞いてこられました。横に置いてあった便利堂さんのミニパンフレットをお渡しするのですが、やはりトークイベントほどの理解はなかなか紙面から得るのは難しいようで、トークイベントの受け売りの説明でなんとかお茶を濁す程度しか私にはできず、そこが残念なところでもありました。
【トークイベントの感想】
今回のトークイベントは本当に盛りだくさんで、実際に刷るのに使っていただいた版を持ってきていただいたり、普段は見せることの無いであろう、途中過程で紙の表面が剥離してしまった失敗作や、和紙ごとの特徴が分かるサンプル、そして実際に刷っていただいていた際の、ドキュメンタリー映像まで上映していただきました。
山本工房長の映像に合わせたトークは、本当に素敵で、時々独特のユーモアが混ざり、来場者を笑いの渦に巻き込みつつ、コロタイプの制作現場とそのプロセスが現場を見ているかのように伝わって参りました。
コロタイプは恐らく版を作った後、唯一、刷の段階で諧調などをコントロールできる手法だというお話でしたが、実際の重たいガラス上のゼラチン版をもとに、どこの部分のゼラチンの硬さ柔らかさを、薬品を使いつつどう微調整して、最終的な写真の部分部分の諧調を出したのかなどご説明いただいたところは、特に貴重なお話だったと思います。
職人さんが指先でゼラチンの状態を感じ取り、身体でその時々の天候による温度湿度を感じ取り、いかにして刷りに導いているのかが伝わってくる素晴らしいトークイベントでした。実際に刷られて展示されているコロタイプを横に、トークを伺うことで、より一層コロタイプの深さと面白さ、可能性の大きさを実感させていただくことができたと感じています。
本当にありがとうございました。
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今回制作した荻野NAO之「太秦」よりコロタイププリント2点(仮題「桜」・「部屋」)は、各エディション20部、注文販売しております(すこしお時間はいただきます)。本紙(ブックマット装)65,000円、額入80,000円(各税別)です。