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「コロタイプ技術の保存と印刷文化を考える会」第18回研究会開催
第18回研究会「伊藤若冲筆≪釈迦・文殊・普賢三尊像≫原本とコロタイプ複製」開催
2012年9月1日 於:相国寺承天閣美術館

弊社では相国寺様のご注文により2006年から伊藤若冲筆≪釈迦・文殊・普賢三尊像≫3幅と≪動植綵絵≫30幅のコロタイプ複製制作に取り組んでまいりました。⇒くわしくはこちら そして多方面の方々のご指導・ご協力のもと6年間の作業を経てようやく昨春完成し、相国寺様に無事お納めすることが出来ました。相国寺承天閣美術館様では、この完成を記念して≪三尊像≫原本とコロタイプ複製が併せて展観されました。
若冲の貴重な作品を原本とコロタイプ複製同時に間近で拝観できる機会にあわせて、相国寺様に特別の御許可を賜り、第18回研究会を同承天閣美術館様にて9月1日に開催させていただきました。
この度の講師には、同志社大学教授 狩野博幸氏と表具師 矢口恵三氏(浩悦庵)をお迎えしました。

■講演「アメイジング伊藤若冲」同志社大学 狩野博幸氏

狩野氏は、『目をみはる伊藤若冲の「動植綵絵」』(小学館)、『伊藤若冲大全』(小学館)等をご執筆されており、京都国立博物館在籍中には、「没後200年 伊藤若冲」展(2000年)を企画されました。今回は狩野先生に若冲その人となりと、狩野先生が研究のなかで集められた貴重なスライドを拝見させていただきながら、細部に至るディスクリプションをお話しくださいました。
若冲の出自からパトロンとの関係や使用した絵具とその方法、技法等、お話の幅広い内容から浮かび上がった若冲像は、講演後に≪三尊像≫を観覧する際はもちろん、今後の若冲作品鑑賞のより深い助けとなりました。
■講演「若冲と表具」 矢口恵三氏(浩悦庵)

矢口恵三氏は、≪三尊像≫≪動植綵絵≫コロタイプ複製の表装を担当していただきました。講演では、この表装作業の始まりから完成までの道のり、若冲がどのようにして表具の裂を選んだのかというお話をしていただきました。
表装の形態が、本尊の「釈迦」、脇侍の「菩薩」、さらにそれを荘厳する「動植綵絵」の三種で違うこと。裂に採用された若冲の出自を思わせる意匠…表装を若冲がどのように組み合わせたのか。若冲がいかに凝った表具の裂地の形を考案したか、だどを詳細に紐解いてくださったお話は、≪動植綵絵≫≪三尊像≫の表具裂だけに留まらない、若冲像に迫るものでした。
裂だけでなく、作品の制作背景も考慮して行われた今回の複製事業は、複製をする者が原本とどう向き合うかその姿勢を伺うお話となりました。
■技法説明「伊藤若冲≪釈迦三尊像・動植綵絵≫コロタイプ複製のご報告」
コロタイプ工房 山本修

2006年の撮影からはじまった複製事業がなぜ6年の歳月を要したのか、2007年に一度完成した≪三尊像≫複製と2012年にお納めした完成品が異なるものとなった理由など、本複製事業の具体的な経緯をご報告いたしました。
まず、2007年に一度完成した≪三尊像≫複製は、コロタイプ用にアレンジした絵絹にコロタイプ多色刷と日本画用の絵具による手彩色がなされました。しかし、日本画用絵具がうまくなじまない箇所が発生してしまい、対応策が練られることとなりました。
コロタイプの色数を倍にするとともに、日本絵具ものらなければならず、その為には設計を一からやり直す必要がありました。日本絵具もコロタイプインクものる絵絹、裏打ちの和紙も楮から専用のものを刷り、浩悦庵様と補彩を担当していただいた川面美術様、便利堂とで何度も打ち合わせがなされ、絹本作りだけでも約1年を要しました。
2008年は下準備に費やされ、2009年より印刷と仕立てに順次取り掛かり、2012年春に無事≪釈迦・文殊・普賢三尊像≫3幅と≪動植綵絵≫30幅が相国寺様に収められるに至りました。ご報告の最後には、コロタイプ印刷の工程について、VTRとともに説明させていただきました。
第18回研究会は、平素より当会をご支援くださっている会友の皆さまに、ひとつの複製が完成するまでに各方面のプロが智慧を絞り協力しあう経緯をご報告し、また実際に≪三尊像≫原本とコロタイプ複製をご覧いただける大変有難い機会となりました。(丹村)
2012年9月1日 於:相国寺承天閣美術館

弊社では相国寺様のご注文により2006年から伊藤若冲筆≪釈迦・文殊・普賢三尊像≫3幅と≪動植綵絵≫30幅のコロタイプ複製制作に取り組んでまいりました。⇒くわしくはこちら そして多方面の方々のご指導・ご協力のもと6年間の作業を経てようやく昨春完成し、相国寺様に無事お納めすることが出来ました。相国寺承天閣美術館様では、この完成を記念して≪三尊像≫原本とコロタイプ複製が併せて展観されました。
若冲の貴重な作品を原本とコロタイプ複製同時に間近で拝観できる機会にあわせて、相国寺様に特別の御許可を賜り、第18回研究会を同承天閣美術館様にて9月1日に開催させていただきました。
この度の講師には、同志社大学教授 狩野博幸氏と表具師 矢口恵三氏(浩悦庵)をお迎えしました。

■講演「アメイジング伊藤若冲」同志社大学 狩野博幸氏

狩野氏は、『目をみはる伊藤若冲の「動植綵絵」』(小学館)、『伊藤若冲大全』(小学館)等をご執筆されており、京都国立博物館在籍中には、「没後200年 伊藤若冲」展(2000年)を企画されました。今回は狩野先生に若冲その人となりと、狩野先生が研究のなかで集められた貴重なスライドを拝見させていただきながら、細部に至るディスクリプションをお話しくださいました。
若冲の出自からパトロンとの関係や使用した絵具とその方法、技法等、お話の幅広い内容から浮かび上がった若冲像は、講演後に≪三尊像≫を観覧する際はもちろん、今後の若冲作品鑑賞のより深い助けとなりました。
■講演「若冲と表具」 矢口恵三氏(浩悦庵)

矢口恵三氏は、≪三尊像≫≪動植綵絵≫コロタイプ複製の表装を担当していただきました。講演では、この表装作業の始まりから完成までの道のり、若冲がどのようにして表具の裂を選んだのかというお話をしていただきました。
表装の形態が、本尊の「釈迦」、脇侍の「菩薩」、さらにそれを荘厳する「動植綵絵」の三種で違うこと。裂に採用された若冲の出自を思わせる意匠…表装を若冲がどのように組み合わせたのか。若冲がいかに凝った表具の裂地の形を考案したか、だどを詳細に紐解いてくださったお話は、≪動植綵絵≫≪三尊像≫の表具裂だけに留まらない、若冲像に迫るものでした。
裂だけでなく、作品の制作背景も考慮して行われた今回の複製事業は、複製をする者が原本とどう向き合うかその姿勢を伺うお話となりました。
■技法説明「伊藤若冲≪釈迦三尊像・動植綵絵≫コロタイプ複製のご報告」
コロタイプ工房 山本修

2006年の撮影からはじまった複製事業がなぜ6年の歳月を要したのか、2007年に一度完成した≪三尊像≫複製と2012年にお納めした完成品が異なるものとなった理由など、本複製事業の具体的な経緯をご報告いたしました。
まず、2007年に一度完成した≪三尊像≫複製は、コロタイプ用にアレンジした絵絹にコロタイプ多色刷と日本画用の絵具による手彩色がなされました。しかし、日本画用絵具がうまくなじまない箇所が発生してしまい、対応策が練られることとなりました。
コロタイプの色数を倍にするとともに、日本絵具ものらなければならず、その為には設計を一からやり直す必要がありました。日本絵具もコロタイプインクものる絵絹、裏打ちの和紙も楮から専用のものを刷り、浩悦庵様と補彩を担当していただいた川面美術様、便利堂とで何度も打ち合わせがなされ、絹本作りだけでも約1年を要しました。
2008年は下準備に費やされ、2009年より印刷と仕立てに順次取り掛かり、2012年春に無事≪釈迦・文殊・普賢三尊像≫3幅と≪動植綵絵≫30幅が相国寺様に収められるに至りました。ご報告の最後には、コロタイプ印刷の工程について、VTRとともに説明させていただきました。
第18回研究会は、平素より当会をご支援くださっている会友の皆さまに、ひとつの複製が完成するまでに各方面のプロが智慧を絞り協力しあう経緯をご報告し、また実際に≪三尊像≫原本とコロタイプ複製をご覧いただける大変有難い機会となりました。(丹村)
法隆寺金堂壁画ガラス乾板保存プロジェクト①
昭和10年撮影のガラス乾板調査開始!

予備調査(平成24年2月27・28日実施)
【プロジェクト設立への経緯】
昨年6月に岩波書店から刊行された『原寸大コロタイプ印刷による 法隆寺金堂壁画選』の制作作業にあたり、原寸大乾板一式を約40年ぶりに法隆寺収蔵庫より借り出しました。その際、法隆寺様からこの乾板の保存についてどうしていったらよいかというお話もでていました。制作作業を終え、原板のご返却をしなければなりませんが、この40年前の保管状態のまま再び収蔵庫に戻してしまって果たしてよいものかという思いがつのることとなりました。この間一度も移動や開封されることがなかったことから、今回納めてしまえばまた相当長期間にわたり今の状態で留め置かれることは必至と思われるため、この機に何らかの出来うる限りの保存策を施すべきと考えて今回のプロジェクトを立ち上げるに至りました。⇒法隆寺金堂壁画と原寸大ガラス乾板について詳しくはこちら

ガラス乾板を法隆寺収蔵庫で40年ぶりに開封し確認したときのもよう
【プロジェクトの意義と目的】
昭和24年の法隆寺金堂壁画の焼損は、現行の文化財保護法制定の契機となった重大な出来事です。そして昭和10年に壁画を記録した便利堂撮影の原寸大分割原板をはじめとする一連のガラス乾板は、その焼損前の現物の姿をうかがい知ることができる「唯一無二」の貴重な文化的資料です。
しかしながら、これらは撮影からすでに80年近くが経過し、経年変化や保存環境による原板の劣化が非常に危惧される状況となっています。近年、写真や映画のフィルムを近代遺産・文化財として保存しようという動きはますます活発になっていますが、この金堂壁画原板も保存し後世に遺すべき貴重な文化財であることは言を待たないでしょう。また、文化財保護の原点となったシンボルとして次世代に受け継がれることの意義は大きいと考えます。
本プロジェクトは、この「法隆寺金堂壁画焼損前記録写真(仮称)」ガラス乾板について、よりよい保存継承のあり方を検討し実施することを目指すものです。
今回は担当の小鮒さんよりプロジェクトの取組みについて報告してもらいます。題して『小鮒ノート』です。
『小鮒ノート』 その1

プロジェクト担当の小鮒です
◎予備調査での発見(平成24年2月27・28日実施)
このプロジェクトは、ご専門である金子隆一先生(東京都写真美術館専門調査員)のご指導をいただき進めています。先生からは、まず原板の詳細な調査報告書の作成が必要とのご助言をいただきました。そこで、今年2月下旬に予備調査として金子先生に実際に原板の状態をご覧いただきながら調書作成に向けて調査内容の確認作業を行いました。
普段東京にいる私は、貴重な原板を実際に目にすることができる!とドキドキしながら新幹線に乗り込みました。本社の写真工房にずらりと並ぶガラス乾板の箱を見ただけでも気分が跳ね上がりましたが、2日間で行ったこの予備調査で、たくさんの発見をすることになりました。
保存対象となりうる一連の写真資料のうち、昭和10年に撮影したものは大きく分けて次の通りです。
1)原寸大分割撮影ガラス乾板(全紙)362枚
2)4色分解撮影ガラス乾板(全紙、半切)56枚
3)赤外線撮影フィルム(全紙)13枚 *今年原版庫より発見される
原寸大分割撮影原板は、撮影ガラス乾板の膜面部分をはがした後、裏返して貼りかえた「コロタイプ原版」になっています。事前に言葉では聞いてはいたもののうまく想像できず、本社で現物を見て初めて「こういうことか」と思ったのでした。金子先生にも私の言葉で伝えていたため、先生も現物を見てびっくりされていました。「撮影原板でもあり、印刷用の原版でもある」ものは、金子先生もこれまで見たことがなく、写真印刷技術史上類例を見ないものと言って良いのではないかとのことでした。
一般的に、ガラス乾板の厚みはカメラに入る1~2mmですが、この原板は厚さ5mmのガラス板に貼りかえてあります。ガラス乾板の膜面をはがすのは、傷つけるリスクなどから基本的にはしないそうで、複版を作る際に厚いガラスに貼り付けることはあるようですが、原板そのものを貼りかえているのは非常に珍しいそうです。当時から「割れないように」という意識のもとに、永久保存を考慮した重要なものとして扱われたことが想像できるという金子先生のご意見もありました。

また、先生のお話しの中で印象に残っているのは、撮影原板の「板」と、コロタイプ原版の「版」の字を区別して使うということでした。「原板」は写真に使うための板、「原版」は印刷に使うための版と区別されますが、今回の場合は同じものを指して両方の特徴を持つものということになります。なんと名づければこのガラス乾板を指すものとなるか、これについてはもう少し考える必要がありそうです(この時は、例えば「撮影原板膜面返しコロタイプ原版-法隆寺金堂壁画原寸大-」という長くややこしい名前があがっていました)。
貼りかえる際に膜面を裏返していますが、コロタイプではネガをガラス版に焼き付けて印刷用の刷版を作るため、正像→左右反転像→正像となります。よって、コロタイプ原版は膜面側から見て正像になっている必要があるため、膜を貼りかえる際に裏返しているという特徴があります。コロタイプで印刷するからこその形となっていることが分かりました。

原板の状態は、思っていた以上に良好でした。しかしよく見ると、膜面の表面がテカテカしすぎていて銀塩の膜にしては不自然では?と金子先生のご指摘があり、弊社写真工房のカメラマンも同意見ながら、何故なのかはすぐに分からず・・・コロタイプ工房の職人に話を聞いてみると、全体にセロファンが貼り付けられていることが分かりました。コロタイプでは、製版作業を行う際に、フィルムに直接食紅を塗る等の手を加えるため、フィルムの上を一度セロファンで保護するやり方があるそうです。このセロファンは、四方をマスキングテープで留められています。「膜面裏返し」「セロファンによるカバー」「四方マスキング」を施していることが酸化を防ぐ結果となり、約40年間特別な保存環境ではなかったにも関わらず、基本的に良好な状態が保たれていると考えられます。
この予備調査をうけ、今後調査を進めるにあたり、調査内容を学術的客観的に審議し、保存方法について検討する委員会を組織することが必要と考え、有識者の先生方にご参画をお願いし調査委員会を発足しました。
◎第1回調査委員会(平成24年6月19日開催)
第1回調査委員会では、金子先生立ち会いのもと行われた事前調査の状況報告とともに、各先生方からのご意見をいただきました。様々なご意見、ご助言をいただく中で、写っている壁画の歴史資料としての価値はもちろんのこと(しかもそれが原寸大でもある)、写真技術を考えるうえでの価値、印刷技術史の中で捉えても価値のある資料であることを再認識しました。

第1回調査委員会(平成24年6月19日開催)
左手前より奥に右回りで、金子隆一先生(東京都写真美術館専門調査員)清水眞澄先生(三井記念美術館館長)鈴木嘉吉先生(本調査委員会委員長・元国立奈良文化財研究所所長)青柳正規先生(国立西洋美術館館長)有賀祥隆先生(東北大学名誉教授)
◎8月8日-9日の調査の様子
予備調査の後、調書のフォーマット作成など調査開始に向けて準備を進めてまいりましたが、いよいよ原板一枚一枚の調査を開始いたしました。1日目は金子先生に立ち会いをお願いし、調査の流れを再度確認しながら作業を進行しました。原寸大分割撮影のガラス乾板を例に取ると、大まかな作業の流れは以下のようになります。

カメラのセット
原版の状態を写真で記録するためヴューワーの上にカメラをセットします。原板をヴューワーにのせ、乳剤面とベース面をそれぞれチェックします。まずは乳剤面からイメージ(画面)の確認のため、透過光で壁画該当部分を印刷物と比較します。調書のチェック項目に従って透過光、反射光それぞれで詳細に見ていきますが、前述したように、原寸大分割撮影の原板は、撮影原板でもありコロタイプ原版でもあるという極めて稀な形から、調書の項目には特殊なものも含まれます。

採寸

採寸(厚み)
チェック項目として、寸法(縦、横、厚み)ガラス板の破損状態、イメージ部分への傷や異物の混入、シルバーミラーの程度、カビやシミの有無などともに、コロタイプ原版であるがゆえの項目として、膜面を覆うセロファンを止めているマスキングテープの裂け、及び裂け部分からの空気の入り具合のチェックが重要となります。また、セロファンで覆う作業にともなうスキージーの跡や、修正のために使用した食紅の跡が残っているかどうかなども併せてチェックしていきます。

シルバーミラー

シミ

セロファンの傷

カビ

テープの裂けによる空気入

食紅の乗っている部分(反射光)

同部分を透過光にすると画像の抜けている部分のためマスキングをしたことが分かる
この2日間では、原寸大分割撮影のガラス乾板のうち6号壁の41枚全点と、赤外線撮影の全紙フィルム12枚、4色分解撮影の全紙ガラス乾板6号壁4色分・4枚の調査を終えました。原板を傷つけないよう慎重に作業を進める中、厚みを測る際には特に集中が必要となりました。そのような中、コロタイプ原版作成時の痕跡がうかがえるのが、セロファンを貼る際のスキージーの跡ですが、6号壁の中でも中尊の阿弥陀様のお顔や、勢至菩薩様のお顔部分などは、スキージー跡がほとんどない綺麗な状態で、重要な部分には気合が入り、より丁寧な作業になるのだろうかと想像させる面白い発見もありました。
80年近く前に誕生した現物を目の前にし、この場に自分が巡り合わせたことは大変貴重なことであり、時代を越えて資料が遺るということは、当時そこに関わった人たちの思いを想像させるなど、単にものが遺るだけにとどまらないことを改めて感じました。引き続き、便利堂コロタイプ工房の職人、写真工房カメラマンを中心に作業を進めてまいります(本日時点で原寸大分割原版はほぼ調査終了いたしました)。今月には報告書としてまとめたいと思っています。
また今後は、調査作業の進行とともに、原寸大フィルムによるアナログ複写とデジタルカメラによる複写という両手法での画像保存について、ならびに原板そのものの保管方法についても検討も進めていく必要があります。調査委員会の先生方を中心にご助言、ご指導をいただきながら、最良の方法を考えていきたいと思っております。

予備調査(平成24年2月27・28日実施)
【プロジェクト設立への経緯】
昨年6月に岩波書店から刊行された『原寸大コロタイプ印刷による 法隆寺金堂壁画選』の制作作業にあたり、原寸大乾板一式を約40年ぶりに法隆寺収蔵庫より借り出しました。その際、法隆寺様からこの乾板の保存についてどうしていったらよいかというお話もでていました。制作作業を終え、原板のご返却をしなければなりませんが、この40年前の保管状態のまま再び収蔵庫に戻してしまって果たしてよいものかという思いがつのることとなりました。この間一度も移動や開封されることがなかったことから、今回納めてしまえばまた相当長期間にわたり今の状態で留め置かれることは必至と思われるため、この機に何らかの出来うる限りの保存策を施すべきと考えて今回のプロジェクトを立ち上げるに至りました。⇒法隆寺金堂壁画と原寸大ガラス乾板について詳しくはこちら

ガラス乾板を法隆寺収蔵庫で40年ぶりに開封し確認したときのもよう
【プロジェクトの意義と目的】
昭和24年の法隆寺金堂壁画の焼損は、現行の文化財保護法制定の契機となった重大な出来事です。そして昭和10年に壁画を記録した便利堂撮影の原寸大分割原板をはじめとする一連のガラス乾板は、その焼損前の現物の姿をうかがい知ることができる「唯一無二」の貴重な文化的資料です。
しかしながら、これらは撮影からすでに80年近くが経過し、経年変化や保存環境による原板の劣化が非常に危惧される状況となっています。近年、写真や映画のフィルムを近代遺産・文化財として保存しようという動きはますます活発になっていますが、この金堂壁画原板も保存し後世に遺すべき貴重な文化財であることは言を待たないでしょう。また、文化財保護の原点となったシンボルとして次世代に受け継がれることの意義は大きいと考えます。
本プロジェクトは、この「法隆寺金堂壁画焼損前記録写真(仮称)」ガラス乾板について、よりよい保存継承のあり方を検討し実施することを目指すものです。
今回は担当の小鮒さんよりプロジェクトの取組みについて報告してもらいます。題して『小鮒ノート』です。
『小鮒ノート』 その1

プロジェクト担当の小鮒です
◎予備調査での発見(平成24年2月27・28日実施)
このプロジェクトは、ご専門である金子隆一先生(東京都写真美術館専門調査員)のご指導をいただき進めています。先生からは、まず原板の詳細な調査報告書の作成が必要とのご助言をいただきました。そこで、今年2月下旬に予備調査として金子先生に実際に原板の状態をご覧いただきながら調書作成に向けて調査内容の確認作業を行いました。
普段東京にいる私は、貴重な原板を実際に目にすることができる!とドキドキしながら新幹線に乗り込みました。本社の写真工房にずらりと並ぶガラス乾板の箱を見ただけでも気分が跳ね上がりましたが、2日間で行ったこの予備調査で、たくさんの発見をすることになりました。
保存対象となりうる一連の写真資料のうち、昭和10年に撮影したものは大きく分けて次の通りです。
1)原寸大分割撮影ガラス乾板(全紙)362枚
2)4色分解撮影ガラス乾板(全紙、半切)56枚
3)赤外線撮影フィルム(全紙)13枚 *今年原版庫より発見される
原寸大分割撮影原板は、撮影ガラス乾板の膜面部分をはがした後、裏返して貼りかえた「コロタイプ原版」になっています。事前に言葉では聞いてはいたもののうまく想像できず、本社で現物を見て初めて「こういうことか」と思ったのでした。金子先生にも私の言葉で伝えていたため、先生も現物を見てびっくりされていました。「撮影原板でもあり、印刷用の原版でもある」ものは、金子先生もこれまで見たことがなく、写真印刷技術史上類例を見ないものと言って良いのではないかとのことでした。
一般的に、ガラス乾板の厚みはカメラに入る1~2mmですが、この原板は厚さ5mmのガラス板に貼りかえてあります。ガラス乾板の膜面をはがすのは、傷つけるリスクなどから基本的にはしないそうで、複版を作る際に厚いガラスに貼り付けることはあるようですが、原板そのものを貼りかえているのは非常に珍しいそうです。当時から「割れないように」という意識のもとに、永久保存を考慮した重要なものとして扱われたことが想像できるという金子先生のご意見もありました。

また、先生のお話しの中で印象に残っているのは、撮影原板の「板」と、コロタイプ原版の「版」の字を区別して使うということでした。「原板」は写真に使うための板、「原版」は印刷に使うための版と区別されますが、今回の場合は同じものを指して両方の特徴を持つものということになります。なんと名づければこのガラス乾板を指すものとなるか、これについてはもう少し考える必要がありそうです(この時は、例えば「撮影原板膜面返しコロタイプ原版-法隆寺金堂壁画原寸大-」という長くややこしい名前があがっていました)。
貼りかえる際に膜面を裏返していますが、コロタイプではネガをガラス版に焼き付けて印刷用の刷版を作るため、正像→左右反転像→正像となります。よって、コロタイプ原版は膜面側から見て正像になっている必要があるため、膜を貼りかえる際に裏返しているという特徴があります。コロタイプで印刷するからこその形となっていることが分かりました。

原板の状態は、思っていた以上に良好でした。しかしよく見ると、膜面の表面がテカテカしすぎていて銀塩の膜にしては不自然では?と金子先生のご指摘があり、弊社写真工房のカメラマンも同意見ながら、何故なのかはすぐに分からず・・・コロタイプ工房の職人に話を聞いてみると、全体にセロファンが貼り付けられていることが分かりました。コロタイプでは、製版作業を行う際に、フィルムに直接食紅を塗る等の手を加えるため、フィルムの上を一度セロファンで保護するやり方があるそうです。このセロファンは、四方をマスキングテープで留められています。「膜面裏返し」「セロファンによるカバー」「四方マスキング」を施していることが酸化を防ぐ結果となり、約40年間特別な保存環境ではなかったにも関わらず、基本的に良好な状態が保たれていると考えられます。
この予備調査をうけ、今後調査を進めるにあたり、調査内容を学術的客観的に審議し、保存方法について検討する委員会を組織することが必要と考え、有識者の先生方にご参画をお願いし調査委員会を発足しました。
◎第1回調査委員会(平成24年6月19日開催)
第1回調査委員会では、金子先生立ち会いのもと行われた事前調査の状況報告とともに、各先生方からのご意見をいただきました。様々なご意見、ご助言をいただく中で、写っている壁画の歴史資料としての価値はもちろんのこと(しかもそれが原寸大でもある)、写真技術を考えるうえでの価値、印刷技術史の中で捉えても価値のある資料であることを再認識しました。

第1回調査委員会(平成24年6月19日開催)
左手前より奥に右回りで、金子隆一先生(東京都写真美術館専門調査員)清水眞澄先生(三井記念美術館館長)鈴木嘉吉先生(本調査委員会委員長・元国立奈良文化財研究所所長)青柳正規先生(国立西洋美術館館長)有賀祥隆先生(東北大学名誉教授)
◎8月8日-9日の調査の様子
予備調査の後、調書のフォーマット作成など調査開始に向けて準備を進めてまいりましたが、いよいよ原板一枚一枚の調査を開始いたしました。1日目は金子先生に立ち会いをお願いし、調査の流れを再度確認しながら作業を進行しました。原寸大分割撮影のガラス乾板を例に取ると、大まかな作業の流れは以下のようになります。

カメラのセット
原版の状態を写真で記録するためヴューワーの上にカメラをセットします。原板をヴューワーにのせ、乳剤面とベース面をそれぞれチェックします。まずは乳剤面からイメージ(画面)の確認のため、透過光で壁画該当部分を印刷物と比較します。調書のチェック項目に従って透過光、反射光それぞれで詳細に見ていきますが、前述したように、原寸大分割撮影の原板は、撮影原板でもありコロタイプ原版でもあるという極めて稀な形から、調書の項目には特殊なものも含まれます。

採寸

採寸(厚み)
チェック項目として、寸法(縦、横、厚み)ガラス板の破損状態、イメージ部分への傷や異物の混入、シルバーミラーの程度、カビやシミの有無などともに、コロタイプ原版であるがゆえの項目として、膜面を覆うセロファンを止めているマスキングテープの裂け、及び裂け部分からの空気の入り具合のチェックが重要となります。また、セロファンで覆う作業にともなうスキージーの跡や、修正のために使用した食紅の跡が残っているかどうかなども併せてチェックしていきます。

シルバーミラー

シミ

セロファンの傷

カビ

テープの裂けによる空気入

食紅の乗っている部分(反射光)

同部分を透過光にすると画像の抜けている部分のためマスキングをしたことが分かる
この2日間では、原寸大分割撮影のガラス乾板のうち6号壁の41枚全点と、赤外線撮影の全紙フィルム12枚、4色分解撮影の全紙ガラス乾板6号壁4色分・4枚の調査を終えました。原板を傷つけないよう慎重に作業を進める中、厚みを測る際には特に集中が必要となりました。そのような中、コロタイプ原版作成時の痕跡がうかがえるのが、セロファンを貼る際のスキージーの跡ですが、6号壁の中でも中尊の阿弥陀様のお顔や、勢至菩薩様のお顔部分などは、スキージー跡がほとんどない綺麗な状態で、重要な部分には気合が入り、より丁寧な作業になるのだろうかと想像させる面白い発見もありました。
80年近く前に誕生した現物を目の前にし、この場に自分が巡り合わせたことは大変貴重なことであり、時代を越えて資料が遺るということは、当時そこに関わった人たちの思いを想像させるなど、単にものが遺るだけにとどまらないことを改めて感じました。引き続き、便利堂コロタイプ工房の職人、写真工房カメラマンを中心に作業を進めてまいります(本日時点で原寸大分割原版はほぼ調査終了いたしました)。今月には報告書としてまとめたいと思っています。
また今後は、調査作業の進行とともに、原寸大フィルムによるアナログ複写とデジタルカメラによる複写という両手法での画像保存について、ならびに原板そのものの保管方法についても検討も進めていく必要があります。調査委員会の先生方を中心にご助言、ご指導をいただきながら、最良の方法を考えていきたいと思っております。
APIS Collotype Workshop
本邦初のコロタイプ・ワークショップ無事終了!

天日での露光作業
この2012年9月8日・9日の2日間にわたって開催されたオルタナティブ・プロセス国際シンポジウム(Alternative Processes International Symposium 2012 Tokyo)に便利堂コロタイプも参加しました。今回の我々としての目玉は便利堂コロタイプ工房開設以来初めてのワークショップの開催です。

かつてはなかなか工房作業についてオープンにしてこなかったコロタイプですが、10年ほど前より工房見学を開始し、百聞は一見に如かずでその目で作業を見ていただき理解を深めていただくことを行ってきました。見学された方々はいずれもその職人技に感嘆感動していただき、少しずつですがコロタイプの知名度復活に貢献できているように思います。
工房見学に続いて、数年前より是非やってみたいと思っていたのがコロタイプのワークショップです。しかしまさか工房の円圧の動力機でプリントをしていただくことはできないので、なかなか実現は難しいなあと夢想するにとどまっていました。2010年に印刷博物館でコロタイプ研究会をさせていただいたとき、館内のワークショップで手フートのレタープレス機を拝見して、こういうコンパクトなものでコロタイプに適したものがあればいいのにとますます思いは募るばかりでした。
そんなある日、ネットでいろいろリサーチしているときに目に留まった小さなレタープレス機。「これならコロタイププリントできるんじゃないの」と、俄然現実味を帯びてきました。早速一台入手したのが去年の秋でした。近いうちに工房の協力も得てテストを、と思いつつ忙しい工房に無理も言えず年を越してしまいました。事態が進展するきっかけは、 「ART KYOTO 2012」(4月27日-29日開催)の会場であるモントレーホテルの部屋が去年のシングルルームからツインをお借りできることになったことでした。「部屋が広くなったことだし、ここでプリントのデモンストレーションをしよう!」ということにしました。 テストでは思いのほかいいプリントが刷れ、当日も多くの方にコロタイプ体験をしていただきました。⇒「レタープレス機でコロタイプしてみました」「ART KYOTO 2012 本日より始まりました!」
ちょうどその頃、PGIの西丸さんからAPISの企画をお聞きし「そこでコロタイプのデモンストレーションをやってもらえませんか」とのオファーをいただきました。ここでようやく本邦初のコロタイプワークショップ実現の道筋がつきました。とはいえ、とりかかりは事務局の大枠がみえてきた7月頃からで、工房には無茶ぶりだったと思いますが、さすが職人気質でしっかりまとめてくれました。
前日のカンファレンスに参加(2012/9/8)
APISは日大芸術学部の江古田校舎を会場に開催されました。カンファレンスの午前中は、マーク・オスターマンMark Osterman氏(写真技法歴史家、ジョージ・イーストマンハウス国際写真美術館)「ウェットコロジオンプロセスの進化」とダゲレオタイプをされている写真家・新井卓氏「ダゲレオタイプ、新たなモニュメントの到来のために」の2本の講演が行われました。
午後は、フランス・スカリー・オスターマンFrance Scully Osterman女史(写真家、写真技法歴史家)「コロジオンP.O.P.プロセス」、原直久先生(写真家、日本大学)「デジタルネガとプリントが広げる写真表現」の講演があり、それに続いて「デジタル・ネガ シンポジウム」が開催され、パネラーの一人として便利堂からは工房長山本が参加しました。
インクジェットによるデジタルネガが一般的になり、現在ではオルタナティブ・プロセスに欠かせない存在となっています。様々なキャリブレーションや出力方法が研究・発表されており、今回はDGSM、PDN、QTRといった方式の開発者の方々が参加されました。便利堂のデジタルネガの研究は意外に古く十数年前のデジタルネガ草創期にさかのぼります。このあたりについては、また別項で取り上げたいと思います。
Skypeで参加のシアトル在住のロン・リーダーさんとは、この8月中旬にカラーカーボンプロセスの研修にシアトルを訪れた時にご自宅にお邪魔し既知を得ていました。山本を見たロンさんが「ヤマモトサ~ン」と親しげに呼びかけてくれたのがうれしかったです(シアトルの件は近日アップ予定)。

パネラー:左より原直久先生、永嶋勝美氏(写真家、DGSM開発者)、山本修(便利堂)、清藤禎樹氏(株式会社ピクトリコ)、枝常伊佐央氏(エプソン販売株式会社)、マーク・ネルソンMark Nelson氏(写真家、PDN開発者)、ロン・リーダーRon Reeder氏(写真家、QTR開発者)

プレゼンテーション中の山本工房長
カンファレンス会場の隣の教室ではパネラーの作例展示が行われました。永嶋さんのDGSMによるゼラチンシルバープリントは素晴らしかったです。便利堂工房でもQTRのテストをしていましたが、どうしても中間からハイライト部分の粒状感が気になり、現在はエプソンの純正ドライバでネガを出力しています。DGSMのネガでコロタイプをしたらどうなるか興味がわきました。

便利堂のプリント展示コーナー
コロタイプワークショップ(2012/9/9)
前日の天気予報では9日はぐずついた雨模様ということでしたので、とにかく天気が心配でした。天日露光ができないとなると大きく段取りがくるうので困ったな、と気が気ではありませんでしたが、痛いほどの日差しに恵まれた好天となりました。
ワークショップは山本工房長と竹内さんがプリンター担当、上田さんと鈴木元くんがゼラチン担当の4名体制で行い、東京オフィスからも多くのスタッフがお手伝い兼ねて参加してくれました。特に上田さんと元くんは大活躍してくれました。参加者は8名で、いずれもプロのフォトグラファーをはじめとする写真に精通する方々です。見学だけで参加して頂いた方も思いのほか多くて、ご覧頂いてるだけでは申し訳ないな、と恐縮でした。
午前【薬品の調合~ゼラチン版の作成~露光】

薬品の計量

湯煎

下引き

薬品の調合(ゼラチン感光液の作成)

濾過後、ガラス板にゼラチン液を塗布

ガラスを振って液を均一化する。これが皆さん難しそうでした(今後の課題)

乾燥のため、塗布後のガラス板を水平に保った台に並べる

これが今回のワークショップの目玉。自家製乾燥機! 上田さんと元くんの創意工夫の賜物です。2台のふとん乾燥機と4台のドライヤーによるハイパワー仕様

乾燥後、ネガを密着して外で露光。ほんとに晴れてよかったです!

裏焼き
露光後、水洗・乾燥をしているあいだにお昼休憩。
午後【プリント】
無事露光も終わり、午後からはひたすらプリント作業に没頭していただきました。ネガの調子がややコントラストがつきすぎたのか、軟調の作風の方には難航させてしまったかもしれません。申し訳ありません! 次回の課題といたします。

あとは各自思い思いに楽しんでプリントしていただきました。
用紙は和紙を中心に数種用意しました


インキは墨以外にセピア、紫、青を用意。いろんな色に挑戦され、思いがけない色表現のプリントが出来てきて、見ていても面白かったです

皆さん写真の熟練者なので呑み込みが早いです




オスターマン夫妻ものぞきに来ていただきました
皆さんプリントに熱中されていて、あっというまに終了時間の5時が来てしまいました。こうしてはじめてのコロタイプワークショップも無事終えることができました。参加してよかったと思っていただけたなら、我々も大変うれしいです。
今回のAIPS主催の皆様、本当にありがとうございました。特に事務局の西丸さん、お疲れ様でした。日大の学生さん達にも大変助けていただきました。参加者の皆さんはもちろん、熱心に見学していただいた皆さんありがとうございました。工房はじめ便利堂スタッフのみんなもよくやってもらったと思います。お疲れ様でした。またこうした機会を設けたいと思いますし、まず次は便利堂スタッフ全員にWSを経験してもらい、もっともっと自社の技術について理解を深めてもらいたいと考えています。
(参加していただいた方々の感想)
「中々体験できない貴重な場を提供してくださいましてありがとうございます。
拝見したプリントの素晴らしさと,シンプルな中にもノウハウがぎっしりと詰まっていそうな工程を堪能させていただきました。驚くような情報量をもつ,重クロム酸塩とゼラチンの組み合わせは,絶対に失ってはいけない映像表現の技術のひとつだと認識いたしました。
自分でやってみるにはかなりの気合が必要だということがわかりましたが,しかし,本気になればはじめられないことも無い...という印象を受けました!」
「コロタイプWSでは貴重な体験をさせていただきました。このWSのための数々の試行と工夫を凝らされたであろう便利堂の皆様に感動いたしました。ありがとうございました。」
「薬品の調合から版板塗布、ネガ焼き付けて製版。プリントではインク色3,4種、支持体の紙7種ほどで、枚数制限無し。職人さんたちがほとんどマンツーマンでの指導、というネガ作り以外はほぼフルプロセスが体験できた贅沢なWSであった。」
「WSではコロタイプのゼラチン版自体の美しさに驚きました。このような貴重な体験をさせていただき本当に感謝しております。
便利堂のみなさまのテクニックや、作業に対する姿勢を本当に勉強させていただきました。
古典技法に魅せられ、ゴム印画を始めて一年ほどですが、今回のAPISのカンファレンスとWSを経験し、その世界の奥深さとともに自分の技術の未熟さを実感しました。これからも少しでも良い作品を作れるようがんばっていきたいと思います。」
「WSにて便利堂の皆さんに親切に教えて頂きとても貴重な体験ができました。
便利堂さんの技術力もさることながら、皆さんのおもてなしとフレンドリーなところがとても良かったです。」
「便利堂の皆様、ありがとうございました。ワークショップの一日、楽しく過ごさせていただきました。
刷りの自由度の高さに、可能性を感じました。刷版は自分で作らなくても、刷りは自分でやった方が良いかもしれないと、思いました。」

天日での露光作業
この2012年9月8日・9日の2日間にわたって開催されたオルタナティブ・プロセス国際シンポジウム(Alternative Processes International Symposium 2012 Tokyo)に便利堂コロタイプも参加しました。今回の我々としての目玉は便利堂コロタイプ工房開設以来初めてのワークショップの開催です。

かつてはなかなか工房作業についてオープンにしてこなかったコロタイプですが、10年ほど前より工房見学を開始し、百聞は一見に如かずでその目で作業を見ていただき理解を深めていただくことを行ってきました。見学された方々はいずれもその職人技に感嘆感動していただき、少しずつですがコロタイプの知名度復活に貢献できているように思います。
工房見学に続いて、数年前より是非やってみたいと思っていたのがコロタイプのワークショップです。しかしまさか工房の円圧の動力機でプリントをしていただくことはできないので、なかなか実現は難しいなあと夢想するにとどまっていました。2010年に印刷博物館でコロタイプ研究会をさせていただいたとき、館内のワークショップで手フートのレタープレス機を拝見して、こういうコンパクトなものでコロタイプに適したものがあればいいのにとますます思いは募るばかりでした。
そんなある日、ネットでいろいろリサーチしているときに目に留まった小さなレタープレス機。「これならコロタイププリントできるんじゃないの」と、俄然現実味を帯びてきました。早速一台入手したのが去年の秋でした。近いうちに工房の協力も得てテストを、と思いつつ忙しい工房に無理も言えず年を越してしまいました。事態が進展するきっかけは、 「ART KYOTO 2012」(4月27日-29日開催)の会場であるモントレーホテルの部屋が去年のシングルルームからツインをお借りできることになったことでした。「部屋が広くなったことだし、ここでプリントのデモンストレーションをしよう!」ということにしました。 テストでは思いのほかいいプリントが刷れ、当日も多くの方にコロタイプ体験をしていただきました。⇒「レタープレス機でコロタイプしてみました」「ART KYOTO 2012 本日より始まりました!」
ちょうどその頃、PGIの西丸さんからAPISの企画をお聞きし「そこでコロタイプのデモンストレーションをやってもらえませんか」とのオファーをいただきました。ここでようやく本邦初のコロタイプワークショップ実現の道筋がつきました。とはいえ、とりかかりは事務局の大枠がみえてきた7月頃からで、工房には無茶ぶりだったと思いますが、さすが職人気質でしっかりまとめてくれました。
前日のカンファレンスに参加(2012/9/8)
APISは日大芸術学部の江古田校舎を会場に開催されました。カンファレンスの午前中は、マーク・オスターマンMark Osterman氏(写真技法歴史家、ジョージ・イーストマンハウス国際写真美術館)「ウェットコロジオンプロセスの進化」とダゲレオタイプをされている写真家・新井卓氏「ダゲレオタイプ、新たなモニュメントの到来のために」の2本の講演が行われました。
午後は、フランス・スカリー・オスターマンFrance Scully Osterman女史(写真家、写真技法歴史家)「コロジオンP.O.P.プロセス」、原直久先生(写真家、日本大学)「デジタルネガとプリントが広げる写真表現」の講演があり、それに続いて「デジタル・ネガ シンポジウム」が開催され、パネラーの一人として便利堂からは工房長山本が参加しました。
インクジェットによるデジタルネガが一般的になり、現在ではオルタナティブ・プロセスに欠かせない存在となっています。様々なキャリブレーションや出力方法が研究・発表されており、今回はDGSM、PDN、QTRといった方式の開発者の方々が参加されました。便利堂のデジタルネガの研究は意外に古く十数年前のデジタルネガ草創期にさかのぼります。このあたりについては、また別項で取り上げたいと思います。
Skypeで参加のシアトル在住のロン・リーダーさんとは、この8月中旬にカラーカーボンプロセスの研修にシアトルを訪れた時にご自宅にお邪魔し既知を得ていました。山本を見たロンさんが「ヤマモトサ~ン」と親しげに呼びかけてくれたのがうれしかったです(シアトルの件は近日アップ予定)。

パネラー:左より原直久先生、永嶋勝美氏(写真家、DGSM開発者)、山本修(便利堂)、清藤禎樹氏(株式会社ピクトリコ)、枝常伊佐央氏(エプソン販売株式会社)、マーク・ネルソンMark Nelson氏(写真家、PDN開発者)、ロン・リーダーRon Reeder氏(写真家、QTR開発者)

プレゼンテーション中の山本工房長
カンファレンス会場の隣の教室ではパネラーの作例展示が行われました。永嶋さんのDGSMによるゼラチンシルバープリントは素晴らしかったです。便利堂工房でもQTRのテストをしていましたが、どうしても中間からハイライト部分の粒状感が気になり、現在はエプソンの純正ドライバでネガを出力しています。DGSMのネガでコロタイプをしたらどうなるか興味がわきました。

便利堂のプリント展示コーナー
コロタイプワークショップ(2012/9/9)
前日の天気予報では9日はぐずついた雨模様ということでしたので、とにかく天気が心配でした。天日露光ができないとなると大きく段取りがくるうので困ったな、と気が気ではありませんでしたが、痛いほどの日差しに恵まれた好天となりました。
ワークショップは山本工房長と竹内さんがプリンター担当、上田さんと鈴木元くんがゼラチン担当の4名体制で行い、東京オフィスからも多くのスタッフがお手伝い兼ねて参加してくれました。特に上田さんと元くんは大活躍してくれました。参加者は8名で、いずれもプロのフォトグラファーをはじめとする写真に精通する方々です。見学だけで参加して頂いた方も思いのほか多くて、ご覧頂いてるだけでは申し訳ないな、と恐縮でした。
午前【薬品の調合~ゼラチン版の作成~露光】

薬品の計量

湯煎

下引き

薬品の調合(ゼラチン感光液の作成)

濾過後、ガラス板にゼラチン液を塗布

ガラスを振って液を均一化する。これが皆さん難しそうでした(今後の課題)

乾燥のため、塗布後のガラス板を水平に保った台に並べる

これが今回のワークショップの目玉。自家製乾燥機! 上田さんと元くんの創意工夫の賜物です。2台のふとん乾燥機と4台のドライヤーによるハイパワー仕様

乾燥後、ネガを密着して外で露光。ほんとに晴れてよかったです!

裏焼き
露光後、水洗・乾燥をしているあいだにお昼休憩。
午後【プリント】
無事露光も終わり、午後からはひたすらプリント作業に没頭していただきました。ネガの調子がややコントラストがつきすぎたのか、軟調の作風の方には難航させてしまったかもしれません。申し訳ありません! 次回の課題といたします。

あとは各自思い思いに楽しんでプリントしていただきました。

用紙は和紙を中心に数種用意しました


インキは墨以外にセピア、紫、青を用意。いろんな色に挑戦され、思いがけない色表現のプリントが出来てきて、見ていても面白かったです

皆さん写真の熟練者なので呑み込みが早いです




オスターマン夫妻ものぞきに来ていただきました
皆さんプリントに熱中されていて、あっというまに終了時間の5時が来てしまいました。こうしてはじめてのコロタイプワークショップも無事終えることができました。参加してよかったと思っていただけたなら、我々も大変うれしいです。
今回のAIPS主催の皆様、本当にありがとうございました。特に事務局の西丸さん、お疲れ様でした。日大の学生さん達にも大変助けていただきました。参加者の皆さんはもちろん、熱心に見学していただいた皆さんありがとうございました。工房はじめ便利堂スタッフのみんなもよくやってもらったと思います。お疲れ様でした。またこうした機会を設けたいと思いますし、まず次は便利堂スタッフ全員にWSを経験してもらい、もっともっと自社の技術について理解を深めてもらいたいと考えています。
(参加していただいた方々の感想)
「中々体験できない貴重な場を提供してくださいましてありがとうございます。
拝見したプリントの素晴らしさと,シンプルな中にもノウハウがぎっしりと詰まっていそうな工程を堪能させていただきました。驚くような情報量をもつ,重クロム酸塩とゼラチンの組み合わせは,絶対に失ってはいけない映像表現の技術のひとつだと認識いたしました。
自分でやってみるにはかなりの気合が必要だということがわかりましたが,しかし,本気になればはじめられないことも無い...という印象を受けました!」
「コロタイプWSでは貴重な体験をさせていただきました。このWSのための数々の試行と工夫を凝らされたであろう便利堂の皆様に感動いたしました。ありがとうございました。」
「薬品の調合から版板塗布、ネガ焼き付けて製版。プリントではインク色3,4種、支持体の紙7種ほどで、枚数制限無し。職人さんたちがほとんどマンツーマンでの指導、というネガ作り以外はほぼフルプロセスが体験できた贅沢なWSであった。」
「WSではコロタイプのゼラチン版自体の美しさに驚きました。このような貴重な体験をさせていただき本当に感謝しております。
便利堂のみなさまのテクニックや、作業に対する姿勢を本当に勉強させていただきました。
古典技法に魅せられ、ゴム印画を始めて一年ほどですが、今回のAPISのカンファレンスとWSを経験し、その世界の奥深さとともに自分の技術の未熟さを実感しました。これからも少しでも良い作品を作れるようがんばっていきたいと思います。」
「WSにて便利堂の皆さんに親切に教えて頂きとても貴重な体験ができました。
便利堂さんの技術力もさることながら、皆さんのおもてなしとフレンドリーなところがとても良かったです。」
「便利堂の皆様、ありがとうございました。ワークショップの一日、楽しく過ごさせていただきました。
刷りの自由度の高さに、可能性を感じました。刷版は自分で作らなくても、刷りは自分でやった方が良いかもしれないと、思いました。」