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《コロタイプギャラリー支配人(代理)から次回展のお知らせ》「モダニズムへの道程――写真雑誌『白陽』に見る構成派の表現」展
大正時代にプリントされた構成派のコロタイプ23点がご覧いただける貴重な機会です!
2015年9月1日(火)~12日(土) 11:00~18:00 ※日曜日休廊

1. 「マーボイストの肖像」(部分)淵上 白陽 『白陽』第5巻第6号 1926
こんにちは。コロタイプギャラリー支配人代理の鈴木です。今年の4月に入社しました。このたびコロタイプギャラリーでの展覧会をはじめて担当します。どうぞよろしくお願いします。

さて、コロタイプギャラリーでは9月1日より「モダニズムへの道程――写真雑誌『白陽』に見る構成派の表現」展を開催します! 本展では、大正から昭和期に活躍した写真家・淵上白陽(ふちかみ・はくよう 本名 清喜:1889~1960)が刊行した写真雑誌『白陽』で活躍した〈構成派〉の写真家たちに焦点を当て、『白陽』に掲載されたコロタイプ・プリント23点を一堂に展示します。
写真雑誌『白陽』とは?
『白陽』は、神戸在住であった淵上白陽が中心となり、1922年(大正11年)に創刊された月刊の芸術写真誌です。経済的、時間的制約と向き合いつつ、刊行当初は、絵画のような画面を写真でつくりあげる「ピクトリアリズム」(=絵画主義)の写真を掲載していました。しかし、『白陽』に関わる作家たちは、関東大震災を経て1925年に入ると、被写体を幾何学的に組み合わせる「構成派」と呼ばれる表現を志向するようになります。
なかなか耳にすることも少ないと思われる「構成派」というこの動向。いったいどういう作風なのでしょうか? 簡単に本展の見どころを紹介したいと思います。
見どころ その①:構成派のまとまった作品群

今回展示する作品は、淵上白陽をはじめとする写真家たち――津坂 淳(つさか・じゅん)、高濱 亀三郎(たかはま・かめさぶろう)、西 亀久二(にし・きくに)、福田 勝治(ふくだ・かつじ)、唐 武(から・たけし)、高田 皆義(たかだ・みなよし)、馬場 八潮(ばば・やしお)、平尾 銓爾(ひらお・せんじ)、松尾 才五郎(まつお・さいごろう)――によるもので、白陽を中心とする彼らは「構成派」とよばれています。
大学では写真史の授業も受講していたのですが、わたしは恥ずかしながら、彼らの作品について知りませんでした。というのも、これまで構成派を正面から取り上げた展覧会は、名古屋市美術館で行われた『構成派の時代』展(1992年)以外に、ほとんどなく、世間一般に知られる機会が少なかったことが要因のひとつであると思います。弊社ギャラリーの展示スペースの都合から、各作家を網羅的に紹介することは困難ですが、それでもなお、これだけの点数をまとめてオリジナル・プリントで目にすることができる本展は、日本のみならず世界的に見ても貴重な機会となるでしょう。
見どころ その②:幾何学的な画面構成

A. 淵上白陽「円と人体の構成」 『白陽』第5巻第6号 1926
画面右下に大きな黒い円があり、その背後には白い円が重なっています。左側には小さな黒い円が見えますが、この周りを見ていくと、これが裸体に近い男性の頭部であることがわかります。一見しただけでは見逃してしまいそうですが、すらっと伸びた手足でポーズをとる男性であることに気が付くと、なんともいえない、少しぞっとするような気持になりますね。作品タイトルを見ると気が付きやすいかもしれません。

B. 津坂 淳「ブリッヂ」 『白陽』第5巻第6号 1926
次はこちらです。画面上を黒々とした太い線が折れ曲がっているように見えます。画面中央に見えるのは電柱でしょうか…? 光と影が織りなす輪郭のぼやけた線を目にすると、被写体同士の境界があいまいになるとともに、自分が知っているはずのものも不明瞭になっていくような気がします。作品タイトルは「ブリッジ」ですが、タイトルを参考にする前に、抽象化された被写体がなにであるのかを考えるのも、なかなか面白いかもしれませんね。
見どころ その③:コロタイプ印刷による重厚なトーン

6. 西亀久二「どよめく空気」 『白陽』第5巻第3号 1926
本展の出品作は、すべて1925~26年に制作されたコロタイプ・プリントです。残念ながら便利堂工房製ではありませんが、90年を経てもなお黒々とした画面は、コロタイプ・インキの耐候性と暗部における力強さを証明しています。しかし、それにもまして、個人的にこれらの作品から受けた印象は、重苦しい空気感でした。そのようにわたしが感じた要因として、1923年に起きた関東大震災が挙げられるかもしれません。震災をきっかけに関西へ拠点を移した福田勝治が、『白陽』をきっかけに西亀久二との交流をもっていたように、この震災が各都市における作家同士の交流を促すという側面も少なからずあったようですが、構成派の活動を振り返る上では考えさせられる出来事ではないかと思います。

15. 高田皆義「風景」 『白陽』第4巻第3号 1925
作家たちはこの震災をどこまで意識していたかはわかりません。ですが、展示作品の中には、震災後の荒廃した土地が都市へと急速に生まれ変わる際の違和感や、1931年の満州事変へとなだれ込む日本の「その後」の空気を現代に伝える何かが、確かにあるように思えます。コロタイプ・インキにより実現されるこの重厚感は同時に、これらの写真が持つ退廃的かつ幻想的な美しさを付与することに貢献しています。こうした表現もコロタイプならではと言えるのではないでしょうか。

19. 松尾才五郎「静物」 『白陽』第5巻第2号 1926
『白陽』は経済的・時間的な制約をのり越え、高品質なコロタイプ・プリントにこだわり続けていました。本展では、その成果として残された精巧なコロタイプ・プリントを通して、『白陽』に掲載された構成派の作品群を垣間見ることができるとともに、彼らの探究心を技術面から支えた日本のコロタイプの技術力の高さを感じていただけることかと思います。普段はなかなか目にする機会の少ない貴重な作品群を、この機会にぜひご高覧下さい。
飯沢耕太郎氏(写真評論家)による展覧会レビュー artscape アートスケープ
http://artscape.jp/report/review/10112930_1735.html
※本展は、表参道画廊での展覧会の巡回展となります。
金子隆一氏によるギャラリートークを開催!
展覧会最終日にあたる9月12日(土)13時30分からは、本展の企画者である金子隆一氏(写真史家)によるギャラリートークを開催いたします。構成派の写真家と彼らが手掛けた作品が、日本写真史上にどのように位置づけられているのか、また、それらの作品はどのように評価されているのかなど、本展をより多様な視点からご覧いただける絶好の機会となりますので、こちらも是非お越しください!
【日時】2015年9月1日(火)~12日(土) ※日曜休廊
【開廊時間】11:00~18:00
【会場】便利堂コロタイプギャラリー (株式会社 便利堂 京都本社1階) 《地図》 ※入場無料
■写真史家・金子隆一氏によるギャラリートーク 9月12日(土)13:30~15:00 無料
※コロタイプギャラリーのフェイスブック開設しました
Facebook.com/benrido.collotype.gallery
■出品リスト
A. 淵上白陽「円と人体の構成」 『白陽』第5巻第6号 1926
B. 津坂 淳「ブリッヂ」 『白陽』第5巻第6号 1926
C. 高濱亀三郎「コンストラクション」 『白陽』第5巻第8号 1926
1. 淵上白陽「マーボイストの肖像」 『白陽』第5巻第6号 1926
2. 淵上白陽「静物」 『白陽』第4巻第3号 1925
3. 淵上白陽「静物」 『白陽』第4巻第1号 1925
4. 淵上白陽「コンストラクシオン」 『白陽』第4巻第6号 1925
5. 淵上白陽「静物」 『白陽』第5巻第3号 1926
6. 西亀久二「どよめく空気」 『白陽』第5巻第3号 1926
7. 西亀久二「幻想」 『白陽』第4巻第9号 1925
8. 西亀久二「二人の男」 『白陽』第5巻第5号 1926
9. 西亀久二「コンストラクシオン」 『白陽』第4巻第10号 1925
10. 西亀久二「静物」 『白陽』第5巻第6号 1926
11. 西亀久二「輝ける構成」 『白陽』第5巻第2号 1926
12. 福田勝治「静物」 『白陽』第5巻第5号 1926
13. 唐 武「静物」 『白陽』第5巻第2号 1926
14. 高田皆義「静物」 『白陽』第5巻第5号 1926
15. 高田皆義「風景」 『白陽』第4巻第3号 1925
16. 馬場八潮「静物」 『白陽』第4巻第3号 1925
17. 馬場八潮「肖像」 『白陽』第5巻第6号 1926
18. 平尾銓爾「布良風景 其の三」 『白陽』第5巻第6号 1926
19. 松尾才五郎「静物」 『白陽』第5巻第2号 1926
20. 松尾才五郎「研究」 『白陽』第5巻第6号 1926
■出品作家略歴:
2015年9月1日(火)~12日(土) 11:00~18:00 ※日曜日休廊

1. 「マーボイストの肖像」(部分)淵上 白陽 『白陽』第5巻第6号 1926
こんにちは。コロタイプギャラリー支配人代理の鈴木です。今年の4月に入社しました。このたびコロタイプギャラリーでの展覧会をはじめて担当します。どうぞよろしくお願いします。

さて、コロタイプギャラリーでは9月1日より「モダニズムへの道程――写真雑誌『白陽』に見る構成派の表現」展を開催します! 本展では、大正から昭和期に活躍した写真家・淵上白陽(ふちかみ・はくよう 本名 清喜:1889~1960)が刊行した写真雑誌『白陽』で活躍した〈構成派〉の写真家たちに焦点を当て、『白陽』に掲載されたコロタイプ・プリント23点を一堂に展示します。
写真雑誌『白陽』とは?
『白陽』は、神戸在住であった淵上白陽が中心となり、1922年(大正11年)に創刊された月刊の芸術写真誌です。経済的、時間的制約と向き合いつつ、刊行当初は、絵画のような画面を写真でつくりあげる「ピクトリアリズム」(=絵画主義)の写真を掲載していました。しかし、『白陽』に関わる作家たちは、関東大震災を経て1925年に入ると、被写体を幾何学的に組み合わせる「構成派」と呼ばれる表現を志向するようになります。
なかなか耳にすることも少ないと思われる「構成派」というこの動向。いったいどういう作風なのでしょうか? 簡単に本展の見どころを紹介したいと思います。
見どころ その①:構成派のまとまった作品群

今回展示する作品は、淵上白陽をはじめとする写真家たち――津坂 淳(つさか・じゅん)、高濱 亀三郎(たかはま・かめさぶろう)、西 亀久二(にし・きくに)、福田 勝治(ふくだ・かつじ)、唐 武(から・たけし)、高田 皆義(たかだ・みなよし)、馬場 八潮(ばば・やしお)、平尾 銓爾(ひらお・せんじ)、松尾 才五郎(まつお・さいごろう)――によるもので、白陽を中心とする彼らは「構成派」とよばれています。
大学では写真史の授業も受講していたのですが、わたしは恥ずかしながら、彼らの作品について知りませんでした。というのも、これまで構成派を正面から取り上げた展覧会は、名古屋市美術館で行われた『構成派の時代』展(1992年)以外に、ほとんどなく、世間一般に知られる機会が少なかったことが要因のひとつであると思います。弊社ギャラリーの展示スペースの都合から、各作家を網羅的に紹介することは困難ですが、それでもなお、これだけの点数をまとめてオリジナル・プリントで目にすることができる本展は、日本のみならず世界的に見ても貴重な機会となるでしょう。
見どころ その②:幾何学的な画面構成

A. 淵上白陽「円と人体の構成」 『白陽』第5巻第6号 1926
画面右下に大きな黒い円があり、その背後には白い円が重なっています。左側には小さな黒い円が見えますが、この周りを見ていくと、これが裸体に近い男性の頭部であることがわかります。一見しただけでは見逃してしまいそうですが、すらっと伸びた手足でポーズをとる男性であることに気が付くと、なんともいえない、少しぞっとするような気持になりますね。作品タイトルを見ると気が付きやすいかもしれません。

B. 津坂 淳「ブリッヂ」 『白陽』第5巻第6号 1926
次はこちらです。画面上を黒々とした太い線が折れ曲がっているように見えます。画面中央に見えるのは電柱でしょうか…? 光と影が織りなす輪郭のぼやけた線を目にすると、被写体同士の境界があいまいになるとともに、自分が知っているはずのものも不明瞭になっていくような気がします。作品タイトルは「ブリッジ」ですが、タイトルを参考にする前に、抽象化された被写体がなにであるのかを考えるのも、なかなか面白いかもしれませんね。
見どころ その③:コロタイプ印刷による重厚なトーン

6. 西亀久二「どよめく空気」 『白陽』第5巻第3号 1926
本展の出品作は、すべて1925~26年に制作されたコロタイプ・プリントです。残念ながら便利堂工房製ではありませんが、90年を経てもなお黒々とした画面は、コロタイプ・インキの耐候性と暗部における力強さを証明しています。しかし、それにもまして、個人的にこれらの作品から受けた印象は、重苦しい空気感でした。そのようにわたしが感じた要因として、1923年に起きた関東大震災が挙げられるかもしれません。震災をきっかけに関西へ拠点を移した福田勝治が、『白陽』をきっかけに西亀久二との交流をもっていたように、この震災が各都市における作家同士の交流を促すという側面も少なからずあったようですが、構成派の活動を振り返る上では考えさせられる出来事ではないかと思います。

15. 高田皆義「風景」 『白陽』第4巻第3号 1925
作家たちはこの震災をどこまで意識していたかはわかりません。ですが、展示作品の中には、震災後の荒廃した土地が都市へと急速に生まれ変わる際の違和感や、1931年の満州事変へとなだれ込む日本の「その後」の空気を現代に伝える何かが、確かにあるように思えます。コロタイプ・インキにより実現されるこの重厚感は同時に、これらの写真が持つ退廃的かつ幻想的な美しさを付与することに貢献しています。こうした表現もコロタイプならではと言えるのではないでしょうか。

19. 松尾才五郎「静物」 『白陽』第5巻第2号 1926
『白陽』は経済的・時間的な制約をのり越え、高品質なコロタイプ・プリントにこだわり続けていました。本展では、その成果として残された精巧なコロタイプ・プリントを通して、『白陽』に掲載された構成派の作品群を垣間見ることができるとともに、彼らの探究心を技術面から支えた日本のコロタイプの技術力の高さを感じていただけることかと思います。普段はなかなか目にする機会の少ない貴重な作品群を、この機会にぜひご高覧下さい。
飯沢耕太郎氏(写真評論家)による展覧会レビュー artscape アートスケープ
http://artscape.jp/report/review/10112930_1735.html
※本展は、表参道画廊での展覧会の巡回展となります。
金子隆一氏によるギャラリートークを開催!
展覧会最終日にあたる9月12日(土)13時30分からは、本展の企画者である金子隆一氏(写真史家)によるギャラリートークを開催いたします。構成派の写真家と彼らが手掛けた作品が、日本写真史上にどのように位置づけられているのか、また、それらの作品はどのように評価されているのかなど、本展をより多様な視点からご覧いただける絶好の機会となりますので、こちらも是非お越しください!
【日時】2015年9月1日(火)~12日(土) ※日曜休廊
【開廊時間】11:00~18:00
【会場】便利堂コロタイプギャラリー (株式会社 便利堂 京都本社1階) 《地図》 ※入場無料
■写真史家・金子隆一氏によるギャラリートーク 9月12日(土)13:30~15:00 無料
※コロタイプギャラリーのフェイスブック開設しました
Facebook.com/benrido.collotype.gallery
■出品リスト
A. 淵上白陽「円と人体の構成」 『白陽』第5巻第6号 1926
B. 津坂 淳「ブリッヂ」 『白陽』第5巻第6号 1926
C. 高濱亀三郎「コンストラクション」 『白陽』第5巻第8号 1926
1. 淵上白陽「マーボイストの肖像」 『白陽』第5巻第6号 1926
2. 淵上白陽「静物」 『白陽』第4巻第3号 1925
3. 淵上白陽「静物」 『白陽』第4巻第1号 1925
4. 淵上白陽「コンストラクシオン」 『白陽』第4巻第6号 1925
5. 淵上白陽「静物」 『白陽』第5巻第3号 1926
6. 西亀久二「どよめく空気」 『白陽』第5巻第3号 1926
7. 西亀久二「幻想」 『白陽』第4巻第9号 1925
8. 西亀久二「二人の男」 『白陽』第5巻第5号 1926
9. 西亀久二「コンストラクシオン」 『白陽』第4巻第10号 1925
10. 西亀久二「静物」 『白陽』第5巻第6号 1926
11. 西亀久二「輝ける構成」 『白陽』第5巻第2号 1926
12. 福田勝治「静物」 『白陽』第5巻第5号 1926
13. 唐 武「静物」 『白陽』第5巻第2号 1926
14. 高田皆義「静物」 『白陽』第5巻第5号 1926
15. 高田皆義「風景」 『白陽』第4巻第3号 1925
16. 馬場八潮「静物」 『白陽』第4巻第3号 1925
17. 馬場八潮「肖像」 『白陽』第5巻第6号 1926
18. 平尾銓爾「布良風景 其の三」 『白陽』第5巻第6号 1926
19. 松尾才五郎「静物」 『白陽』第5巻第2号 1926
20. 松尾才五郎「研究」 『白陽』第5巻第6号 1926
■出品作家略歴:
初挑戦! コロタイプ用大全紙カメラで野外撮影をやってみた!
倉庫に眠っていた超大型アナログカメラ、復活への道

先日、真夏の炎天下、便利堂本社の屋上から望む比叡山を超大型アナログカメラで撮影しました!今回はそのレポートです。じつはこの超大型カメラ、本来はコロタイプ用のカメラなのです…

コロタイプギャラリー支配人の藤岡です。
コロタイプで絵画や文書などを複製する際、仕事のはじまりは原本の撮影です。コロタイプは、ゼラチン版にネガを密着露光しますので、原寸大の複製をプリントするためには、原寸大のネガが必要となります。つまりそのためには原寸で撮影できるカメラが必要ということになります。そこで主力となったのは、大全サイズ(20×24インチ=50.8×61.0㎝)の特注モノクロフィルムが装てん可能な超大型カメラです(上の写真)。つまり、8×10(エイト・バイ・テン)の6倍の大きさです!
昭和45年(1970)便利堂が独自に開発し(国宝「伴大納言絵巻」〔出光美術館蔵〕原寸大複製のタイミングです)、いまでも写場に据え付けられ、もちろん現役で使用可能です(最大22×28インチまで撮影可)。原稿を平台にセットし俯瞰の状態で、ミラーを通して膜面が正画になるようにして撮影します(なぜ膜面が正画にならないといけないかについては⇒こちら)。一連の操作は、カメラの内部にひとが入って(!)おこないます。その形状から、社員は「タテ型カメラ」の愛称で呼んできました。

タテ型カメラ内部
ですが、複製の仕事があるたびに、貴重な原本を便利堂に持ち込んでもらえるわけではありません。ほとんどが出張撮影になります。そこで昭和50年(1975)出張用の分解・組み立て型のタテ型カメラを開発しました(宮内庁書陵部でのレプリカ用撮影でデビューしました)。4トントラックで撮影現場まで運び、その場で組み立てる。撮影終了後は解体してまたトラックに積んで帰ります。レプリカ制作が華やかなりし時代は、午前と午後の「ダブルヘッダー」もあったそうです。

タテ型カメラはフィルターを用いて色分解カラー撮影を行います。レンズの前にはミラーがあり、鏡面(膜面で正画となるよう)に撮影します。
つい前置きが長くなってしまいましたが、じつはこのタテ型カメラ、コロタイプ複製制作ではもうほとんど使われることがなくなりました。まして移動式の出番はありません、悲しいですが。便利堂では数年前に、最大6100万画素の超高精細デジタルカメラを導入し、レプリカ制作の現場でも、デジタル撮影が主流となってきています。デジタルカメラは、もちろん機動性に優れ、デジタルデータからでもアナログ撮影と何ら遜色ない、後工程の画像処理などの条件によってはそれ以上のクオリティの複製を制作することが可能となっています(大幅の作品であれば、8×10あるいは11×14インチのカラーフィルム撮影で対応します。媒体がもつ情報量については、フィルムの優位性を強調しておきます)。
とはいえ、この移動式タテ型カメラを倉庫に埋もれさせておくのは、あまりにもったいない。なにか有効な、そしておもしろい使い途がないか、社員みんなで考えています。まだ結論は出ていませんが、まずはそんなカメラがあることを、大全フィルムがもつ画像の圧倒的な情報量を、多くのひとに知ってもらうため、手始めに…史上初!タテ型カメラ屋外撮影のデモンストレーションを敢行しました。文末には動画もアップしてます!

移動式タテ型カメラを長年預かってくれているのは、京都の美術品輸送「まるたけ運送」さん。朝一番で、4トントラックが便利堂駐車場に到着しました。いかにも重そうな木箱やアルミ箱、鉄パイプなどを次々におろしていきます。

便利堂の屋上は4階です。エレベーターなんてありません。複雑に入り組んだ構造になっており、男どもが狭いなかを縫うように進み、階段の踊り場で悶えながら何度も往復して「部材」を運び上げました。

さて組み立てを始めます。まずは足場となる<土台>と<本体>を接合し、5箇所のボルトを調整して水平を取ります。つぎに<本体>と蛇腹が付いた<ヘッド>を接合し、<ピントガラス>を<ヘッド>のスライドレールに載せ、蛇腹とつなぎます。<ヘッド>の前部に大型レンズを嵌めると、これでカメラの形になったように見えます。

サイズが桁外れなので想像しにくいかもしれませんが、カメラの内部は暗黒でなければなりません。そこで、この<ヘッド>+<本体>を覆い、なかでひとが作業できるスペースをもった暗室をつくります。鉄パイプで骨組みをつくり、分厚い暗幕(ファスナー式)で覆います。ここまでくると、<ピントガラス>にうっすら像が浮かび上がります。もちろん天地逆さまです。

今度は<バキューム盤>の取り付けです。ここにフィルムを装てんするのですが、脱落しないように、また平滑面を維持するために、その名のとおりフィルムを吸いつけるのです。<ヘッド>の右に<ピントガラス>を、左に<バキューム盤>を取り付け、それぞれが開閉できるようになっています。<ピントガラス>を見ながら蛇腹を前後させ、ピントが合ったら<ピントガラス>を除けて、<バキューム盤>を取り付けます。暗室外の電動でフィルムを盤に吸いつけます。これが、タテ型カメラでほぼ唯一の電気的装置です!
大全紙サイズの大型カメラは、世の中にはほかにも存在しますが、このカメラの違いはこのバキューム装置です。この後触れますが、この機能があるからこそ、4色分解で大全紙大のカラー撮影ができるのです!

カメラ全部を覆ったら、これで完成!内部は暗黒。手元照明だけが頼りです。


今回は屋外撮影ということで、シャッターなしの「手蓋」です。時間を計って「手蓋」を開閉し、フィルムを感光させて外景を焼き付けるだけの単純な仕組みです。露光は f.90で1秒。使用フィルムは富士フィルム製「SN-12」、便利堂特注品。現在生産中止で社でストックしている分のみが存在します。

いよいよ次は、色分解によるカラー撮影です。フィルター色の濃度によって露光時間が変わりますので、「フィルター倍数」という色ごとに係数を掛けて割り出しています。今回は「ノンフィルター」を1秒として、Y(イエロー)1.5秒、R(レッド)4秒、G(グリーン)15秒、V(ヴァイオレット)30秒です。この長い露光時間のあいだにフィルムが動かないようにするためにバキューム装置があります。
そして色分解撮影は、それぞれY→黒、R→青、G→赤、V→黄の色を取り出すものですが、印刷によって初めてカラー再現できます。4枚のフィルムを合わせたときにぴったり合うようにフィルムを平滑にするのもバキューム装置の大切な役目です。また、本体を重量級にしているのも、同様にフィルムの精度を保つためですがデメリットでもありますね。さて、ぜひこの色分解フィルムを使ってコロタイプでカラープリントをつくってみたいので、この結果は後日報告します。

さあ、さっそく現像です!フィルムには絶対に光が当たらないよう厳重に暗箱に封入して暗室へ。現像結果は如何に。本城カメラマン、上がりはどうですか?

「撮影時は暴風に煽られ、どうなるかと思いましたが、ブレもなくばっちりです。35ミリや4×5フィルムと比べ、ディテールの情報量が半端じゃない。比叡山山頂のガーデンミュージアムまで?写っています!次はタテ型で富士山を撮ってみたいです!」

漢(おとこ)たちのやりきった感がにじみ出てます! 便利堂カメラマンたちとまるたけ運送のおふたり(右)
トラックの到着からフィルムの現像まで約5時間。全員汗まみれのクタクタでしたが、すばらしい結果に、一同大喜び。初めてのデモに、なにもこんな季節を選ばなくても…とは正直思いましたが、私自身もしっかり手応えを感じました。つぎは会社の外に飛び出して、このカメラを組み立て、撮影している姿を街の人々にみてもらいたい。さらに、ぜひやってみたいという方が現れてほしい、と思っています。タテ型カメラに何ができるのか、世の中でどんなお役にたてるのか、可能性を探るため、今後もプロジェクトを推進していきますので、活動をチェックしておいてください!
追記:プリント焼いてみました!

あせって裏焼きしてしまいまいました(はずかしー)

正しくはこうですね(反転画像)

遠景もこの通り。
ぜひ、タテ型カメラで撮影したいという方、ご連絡ください! 応相談!
ご連絡は下記まで!
collotype-workshop@benrido.co.jp

先日、真夏の炎天下、便利堂本社の屋上から望む比叡山を超大型アナログカメラで撮影しました!今回はそのレポートです。じつはこの超大型カメラ、本来はコロタイプ用のカメラなのです…

コロタイプギャラリー支配人の藤岡です。
コロタイプで絵画や文書などを複製する際、仕事のはじまりは原本の撮影です。コロタイプは、ゼラチン版にネガを密着露光しますので、原寸大の複製をプリントするためには、原寸大のネガが必要となります。つまりそのためには原寸で撮影できるカメラが必要ということになります。そこで主力となったのは、大全サイズ(20×24インチ=50.8×61.0㎝)の特注モノクロフィルムが装てん可能な超大型カメラです(上の写真)。つまり、8×10(エイト・バイ・テン)の6倍の大きさです!
昭和45年(1970)便利堂が独自に開発し(国宝「伴大納言絵巻」〔出光美術館蔵〕原寸大複製のタイミングです)、いまでも写場に据え付けられ、もちろん現役で使用可能です(最大22×28インチまで撮影可)。原稿を平台にセットし俯瞰の状態で、ミラーを通して膜面が正画になるようにして撮影します(なぜ膜面が正画にならないといけないかについては⇒こちら)。一連の操作は、カメラの内部にひとが入って(!)おこないます。その形状から、社員は「タテ型カメラ」の愛称で呼んできました。

タテ型カメラ内部
ですが、複製の仕事があるたびに、貴重な原本を便利堂に持ち込んでもらえるわけではありません。ほとんどが出張撮影になります。そこで昭和50年(1975)出張用の分解・組み立て型のタテ型カメラを開発しました(宮内庁書陵部でのレプリカ用撮影でデビューしました)。4トントラックで撮影現場まで運び、その場で組み立てる。撮影終了後は解体してまたトラックに積んで帰ります。レプリカ制作が華やかなりし時代は、午前と午後の「ダブルヘッダー」もあったそうです。

タテ型カメラはフィルターを用いて色分解カラー撮影を行います。レンズの前にはミラーがあり、鏡面(膜面で正画となるよう)に撮影します。
つい前置きが長くなってしまいましたが、じつはこのタテ型カメラ、コロタイプ複製制作ではもうほとんど使われることがなくなりました。まして移動式の出番はありません、悲しいですが。便利堂では数年前に、最大6100万画素の超高精細デジタルカメラを導入し、レプリカ制作の現場でも、デジタル撮影が主流となってきています。デジタルカメラは、もちろん機動性に優れ、デジタルデータからでもアナログ撮影と何ら遜色ない、後工程の画像処理などの条件によってはそれ以上のクオリティの複製を制作することが可能となっています(大幅の作品であれば、8×10あるいは11×14インチのカラーフィルム撮影で対応します。媒体がもつ情報量については、フィルムの優位性を強調しておきます)。
とはいえ、この移動式タテ型カメラを倉庫に埋もれさせておくのは、あまりにもったいない。なにか有効な、そしておもしろい使い途がないか、社員みんなで考えています。まだ結論は出ていませんが、まずはそんなカメラがあることを、大全フィルムがもつ画像の圧倒的な情報量を、多くのひとに知ってもらうため、手始めに…史上初!タテ型カメラ屋外撮影のデモンストレーションを敢行しました。文末には動画もアップしてます!

移動式タテ型カメラを長年預かってくれているのは、京都の美術品輸送「まるたけ運送」さん。朝一番で、4トントラックが便利堂駐車場に到着しました。いかにも重そうな木箱やアルミ箱、鉄パイプなどを次々におろしていきます。

便利堂の屋上は4階です。エレベーターなんてありません。複雑に入り組んだ構造になっており、男どもが狭いなかを縫うように進み、階段の踊り場で悶えながら何度も往復して「部材」を運び上げました。

さて組み立てを始めます。まずは足場となる<土台>と<本体>を接合し、5箇所のボルトを調整して水平を取ります。つぎに<本体>と蛇腹が付いた<ヘッド>を接合し、<ピントガラス>を<ヘッド>のスライドレールに載せ、蛇腹とつなぎます。<ヘッド>の前部に大型レンズを嵌めると、これでカメラの形になったように見えます。

サイズが桁外れなので想像しにくいかもしれませんが、カメラの内部は暗黒でなければなりません。そこで、この<ヘッド>+<本体>を覆い、なかでひとが作業できるスペースをもった暗室をつくります。鉄パイプで骨組みをつくり、分厚い暗幕(ファスナー式)で覆います。ここまでくると、<ピントガラス>にうっすら像が浮かび上がります。もちろん天地逆さまです。

今度は<バキューム盤>の取り付けです。ここにフィルムを装てんするのですが、脱落しないように、また平滑面を維持するために、その名のとおりフィルムを吸いつけるのです。<ヘッド>の右に<ピントガラス>を、左に<バキューム盤>を取り付け、それぞれが開閉できるようになっています。<ピントガラス>を見ながら蛇腹を前後させ、ピントが合ったら<ピントガラス>を除けて、<バキューム盤>を取り付けます。暗室外の電動でフィルムを盤に吸いつけます。これが、タテ型カメラでほぼ唯一の電気的装置です!
大全紙サイズの大型カメラは、世の中にはほかにも存在しますが、このカメラの違いはこのバキューム装置です。この後触れますが、この機能があるからこそ、4色分解で大全紙大のカラー撮影ができるのです!

カメラ全部を覆ったら、これで完成!内部は暗黒。手元照明だけが頼りです。


今回は屋外撮影ということで、シャッターなしの「手蓋」です。時間を計って「手蓋」を開閉し、フィルムを感光させて外景を焼き付けるだけの単純な仕組みです。露光は f.90で1秒。使用フィルムは富士フィルム製「SN-12」、便利堂特注品。現在生産中止で社でストックしている分のみが存在します。

いよいよ次は、色分解によるカラー撮影です。フィルター色の濃度によって露光時間が変わりますので、「フィルター倍数」という色ごとに係数を掛けて割り出しています。今回は「ノンフィルター」を1秒として、Y(イエロー)1.5秒、R(レッド)4秒、G(グリーン)15秒、V(ヴァイオレット)30秒です。この長い露光時間のあいだにフィルムが動かないようにするためにバキューム装置があります。
そして色分解撮影は、それぞれY→黒、R→青、G→赤、V→黄の色を取り出すものですが、印刷によって初めてカラー再現できます。4枚のフィルムを合わせたときにぴったり合うようにフィルムを平滑にするのもバキューム装置の大切な役目です。また、本体を重量級にしているのも、同様にフィルムの精度を保つためですがデメリットでもありますね。さて、ぜひこの色分解フィルムを使ってコロタイプでカラープリントをつくってみたいので、この結果は後日報告します。

さあ、さっそく現像です!フィルムには絶対に光が当たらないよう厳重に暗箱に封入して暗室へ。現像結果は如何に。本城カメラマン、上がりはどうですか?

「撮影時は暴風に煽られ、どうなるかと思いましたが、ブレもなくばっちりです。35ミリや4×5フィルムと比べ、ディテールの情報量が半端じゃない。比叡山山頂のガーデンミュージアムまで?写っています!次はタテ型で富士山を撮ってみたいです!」

漢(おとこ)たちのやりきった感がにじみ出てます! 便利堂カメラマンたちとまるたけ運送のおふたり(右)
トラックの到着からフィルムの現像まで約5時間。全員汗まみれのクタクタでしたが、すばらしい結果に、一同大喜び。初めてのデモに、なにもこんな季節を選ばなくても…とは正直思いましたが、私自身もしっかり手応えを感じました。つぎは会社の外に飛び出して、このカメラを組み立て、撮影している姿を街の人々にみてもらいたい。さらに、ぜひやってみたいという方が現れてほしい、と思っています。タテ型カメラに何ができるのか、世の中でどんなお役にたてるのか、可能性を探るため、今後もプロジェクトを推進していきますので、活動をチェックしておいてください!
追記:プリント焼いてみました!

あせって裏焼きしてしまいまいました(はずかしー)

正しくはこうですね(反転画像)

遠景もこの通り。
ぜひ、タテ型カメラで撮影したいという方、ご連絡ください! 応相談!
ご連絡は下記まで!
collotype-workshop@benrido.co.jp