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複製で見る“原寸大”美術全集「美の記憶-よみがえる至宝たち-」展 開催中!

Posted by takumi suzuki on 20.2016 【今日のコロタイプ】    0 comments   0 trackback
“京都便利堂”が護ったコロタイプ” 今週23日まで!
平成28年9月16日(金)~10月23日(日) @高岡市美術館

高岡1

先月16日より、「美の記憶-よみがえる至宝たち- “京都便利堂”が護ったコロタイプ」と題した展覧会が富山県高岡市美術館で好評開催中です。本展は、便利堂創業130年記念事業として高岡市美術館の多大なご協力を得て開催が実現しました。期間中、多彩なイベントも開催され、多くの皆さまにご来館いただいています。この展覧会もいよいよ今週いっぱいの会期となりました。遅ればせながら、開催の実施報告をかねて、この展覧会の見どころをご紹介したいと思います。

高岡2

会場となる高岡市美術館は前田利長が建てた高岡城(現在は古城公園として整備されています)のほとりに、平成6年(1994)にリニューアル・オープンしました。鋳物の町として有名な高岡にふさわしく、金属工芸をはじめとして漆芸、絵画、彫刻など、あらゆる美術工芸分野より郷土にゆかりの深い作家の作品が数多くコレクションされています。

高岡3

村上隆館長の発案によって企画されたこの展覧会は、単なる文化財の「コピー展」ではなく、日本文化を代表する素晴らしい作品を、美術全集のページをめくるように明るい展示室でじっくりと観覧できて、なおかつ、原寸大の複製で実物大の作品と直接対面できるところがポイントととなっています。詳しい趣旨は、この展覧会を機に刊行した記念誌『時を超えた伝統の技-文化を未来の手渡すコロタイプによる文化財の複製』掲載の村上先生の寄稿文に記されていますので、ぜひご参照ください。

『時を超えた伝統の技-文化を未来の手渡すコロタイプによる文化財の複製』
『時を超えた伝統の技-文化を未来の手渡すコロタイプによる文化財の複製』 900円+税
くわしくはこちら→京都便利堂オンラインショップ


焼損前の「法隆寺金堂壁画」を
撮影したガラス乾板から
よみがえった迫力の十二面


高岡4

まず会場の第1室目に登場するのは、昭和24年に焼損した法隆寺金堂壁画の焼損前の姿を写した原寸大コロタイプ複製全12幅です。軸装に仕立てられた同壁画複製は、高さが3m以上あり、なかなかこの複製を展示できる機会はありません。金堂の内陣にいるかのような少し照明を落とした展示室にスポットで壁画が浮かび上がります。しかも全12幅、さらには法隆寺金堂と同じ配置で展示されるという、広くて天井の高い展示室を持つ高岡市美術館だからこそ実現できた素晴らしい空間です。我々便利堂の社員も、12幅をこのような形で一同に観る機会はめったになく、その壮観な姿に感動しています。

法隆寺金堂壁画コロタイプ複製についてくわしくはこちら→「法隆寺金堂壁画とコロタイプ」


時代を超えて
再び巡り合った
“琳派”の二人の表裏


高岡 10月8日(3)
10月20日 村上館長と弊社西村によるギャラリートーク

第2室では、尾形光琳筆「風神雷神図屏風」復元複製里帰り実行委員会によって昨年完成し、本年春に京都府に寄贈された「光琳・風神雷神、抱一・夏秋草図」の両面屏風が迫力のお出迎え。光琳の「風神雷神図」を讃えて「風」と「水」を主題に描いた抱一の「夏秋草図」は、もとは同じ屏風の表裏でした。現在は作品保存のために別々の屏風に仕立て直されている二つの作品を、コロタイプ複製にすることで再び本来の姿でご覧いただけます。
両面屏風復元複製プロジェクトについてくわしくはこちら→光琳「風神雷神図」抱一「夏秋草図」両面屏風玻璃版複製完成!


カラーコロタイプの探求によって
長大な絵巻物を再現し
魅力をゆっくりと楽しむ


高岡5

第2室にはその他にも絵巻物や文書などの複製を一堂に展観。これら20数点の展示複製のオリジナル作品は、ほとんどが国宝か重要文化財に指定されています。御堂関白記(原本:陽明文庫)、東寺百合文書(原本:京都府)、伴大納言絵詞(原本:出光美術館)、鳥獣人物戯画(原本:高山寺)など、普段は目にする機会も少なく、限られた場面しか展示されない名品の巻物が、スペースの許す限り長く長く繰り広げられています。みなさんじっくりとご覧になっています。

高岡 10月8日 (2)
10月20日 ギャラリートーク

第3室は明治から昭和初期まで使用していたコロタイプ印刷機や、コロタイプで使う材料、和紙の原料と製品、明治時代の絵はがき、コロタイプの複製の意義や工程を説明したパネルなどを展示しています。


多彩な関連イベントも実施

■「高岡の夏」写真コンテスト&手刷り体験ワークショップ
9月24日(土)13:30~15:00 高岡市美術館地階ビトークホール

高岡 9月24日WS(5)

関連イベントとして“高岡の夏”をテーマに、自分で撮影した写真のコロタイプ刷を体験するワークショップが開催されました。市民の方々から9作品が応募され、自作写真を刷っていただきました。

この日参加していただいたのは見学者も入れて15名ほど。写真愛好家が多い土地柄か、いずれも高岡の夏を切り取った力作ばかりでした。コロタイプ技法の説明を受けるのもそこそこに、「すぐに刷ってみたい」という皆さん気持ちが伝わってきました。街角の商店、高岡を代表する名刹瑞龍寺、雨晴海岸、高岡のお祭の風景など、高岡の夏を象徴する写真が集まりました。最初はうまく行かなかった刷りも、山本をはじめとした便利堂スタッフのアドバイスによってだんだんと上手になり、皆さん、最後は納得の逸品を仕上げていただきました。

高岡 グランプリ作品

そして、9作品の中からもっとも輝く1点が選ばれました。さすがは鋳物の町高岡です。鋳物工場を撮影した梅木宏真さんの作品がグランプリに選ばれ、「美の記憶」展の図録がプレゼントされました。刷り上がった9作品は「美の記憶」展開催中は美術館のロビーで展示されています。

■京都文化博物館学学芸員の長村祥知氏による特別講演会
「御堂関白記と花園院宸記の魅力-巻子本日記とコロタイプ複製」
10月2日(日)14:00~15:30 高岡市美術館地階ビトークホール

長村講演3
長村祥知学芸員

平安時代の貴族、藤原道長の日記『御堂関白記』、そして鎌倉時代の花園天皇の日記『花園院宸記』。長村氏には、歴史研究の上で貴重な史料である二つ日記の魅力について、展覧会の内容に合わせてお話しいただきました。当日は50名ほどの聴講者がありました。地元で古文書の勉強をされている方や歴史愛好家の方々があつまり、皆さん最後まで熱心に講演を聞いておられました。

第2室御堂関白
「御堂関白記」

長村氏はまず、紫式部筆の『源氏物語』のオリジナルが存在しないことを例に挙げ、日本独特の「書写の文化」について説明されました。写本・活字・翻訳は多数あれど、それを納める「器」は可変的であること、加えて、実物としての視覚的・形態的意義の重要性から複製が果たす役割の大きさを説かれました。特に、巻物に書かれた墨書の濃淡や本紙の継ぎ方(たとえば、どこに切断箇所があり、どこに新しい紙が継ぎ足されているかなど)から知り得る真理があることに触れ、オリジナルが公開され、それを熟覧することが如何に大切であるかを説明されました。

長村講演1
講演会では実際の複製を見ていただきながら、普段あまり目にすることない巻子の裏面に書かれた紙背文書についても判りやすく説明していただきました

しかしオリジナルの公開には制約があります。このような状況の中での複製づくりの意義が何処にあるのかを判りやすく話していただきました。つまり複製の良し悪しは職人の技術の熟練度や監修者・発注者の判断や注意力に左右される一方で、長期展示が可能、1ヶ所に占有されない、体系的な展示が可能、復原製作が可能。災害等のオリジナル亡失への備え。明るい場所での展示が可能。制作時のオリジナルの姿を記録できる(経年変化のチェックにつながる)ことなどを紹介されました。加えて、ご自身が学生時代に『花園院宸記』のコロタイプ複製で学んだエピソードを紹介されつつ、研究者個々人にとって熟覧と接触調査の機会が増加することで、後進の育成にも繋がる点を強調されました。ここからは『御堂関白記』と『花園院宸記』の魅力についての熱い語りとなりました(この話はまた別の機会に)。

■二人のスペシャルトーク 村上館長×西村寿美雄
10月8日(土)14:00~15:00

高岡 10月8日(4)
 
関連イベント第3弾として10月8日、高岡市美術館の村上隆館長と便利堂の西村寿美雄の2人が、展覧会会場を巡りながらギャラリートークをおこないました。当日はおよそ30名の方々にお集まりいただきました。1時間という限られた時間の中でのギャラリートークでしたが、途中退場する方もみあたらず、みなさん、最初から最後までとても熱心に聴講していただきました。

第1室の法隆寺金堂壁画のコロタイプ複製からスタート。これらの複製が昭和12年製であることや、壁画の配置が法隆寺の金堂とまったく同じであること。これは高岡市美術館の展示室の広さがあってこそ実現したことで、とりわけ館長が部屋手前の2面の仮設壁を作ったことが金堂再現につながったことを説明されると、多くの方々から感嘆の声が上がりました。また、ギャラリーの中にはプロの表具師も参加されていて、当時の表具技術のレベルの高さに驚かれていました。村上館長は説明の中で、この第1展示室をおもわず「このお堂は…」とおっしゃられました。後で参加されていた研究者より、「お堂と表現するのはもっともなことで、まさにこの展覧会を象徴する言葉ではないか」とのコメントをいただきました。

続いて第2室。入口に立ちはだかる尾形光琳の「風神雷神図屏風」の複製にみなさん息を呑んでおられました。この風神雷神と、屏風の裏面にある酒井抱一が描いた「夏秋草図屏風」との関係を説明させていただくことで、よりみなさんの興味が深まったようでした。

展示複製一つひとつを概観的に説明するとともに、館長と西村の2人から、複製であるからこそ実現できた点、ここが本展の肝になるところなので丁寧かつ強調して説明しました。明るい展示室、極端に照度を気にする必要はないこと。全巻(巻物の最初から最後まで)通しで鑑賞できること。オリジナルの展示ではゆっくりと鑑賞できない名品が時間をかけてじっくりと鑑賞できること。めったに目にすることができない文化財を、露出展示で間近に観られることなどをお話しさせていただきました。

第3室1

一応、第2室をもってギャラリートークは終えましたが、コロタイプの資料類を展示した第3室に移り、お客さんの個別のご質問にお答えする時間を作りました。予想以上にコロタイプ技術をもっと具体的に知りたいという方が多く、出来る限り判りやすく説明させていただきました。特に、コロタイプ技術を支えていただいているコロタイプ専用インキや手漉き和紙、ガラス板、インキを練る鋼性のヘラなど、その全て特注品であり、これらの技術的な支援なくしてはコロタイプ技術が成り立たないことを説明させていただくと、「次の世代に伝えないといけない技術ですね。是非頑張って下さい」との励ましのお言葉を多数頂戴しました。

■親子で刷り体験「チョウジュウギガ/うさぎのウ」
10月15日(土) 13:30~15:00

高岡6

土曜日ということもあり、10組の親子のみなさんが参加されました。



会期は残り少なくなりましたが、是非ひとりでも多く方にご覧いただきたいと思います。




コロタイプギャラリー次回展のお知らせ 「鉄斎と便利堂」展

Posted by takumi suzuki on 19.2016 【コロタイプギャラリー】   2 comments   0 trackback
富岡鉄斎生誕180年・便利堂創業130年を記念して開催!
2016年10月22日(土)~11月11日(金) 11:00~18:00 期間中無休 @便利堂コロタイプギャラリー

鉄斎展

fujioka.jpg

ご無沙汰しています、コロタイプギャラリー支配人の藤岡です。
しばらく支配人代理に任せっぱなしでしたが、今回は私から秋季企画展のお知らせです。

今回のテーマは鉄斎!
本2016年は、富岡鉄斎生誕180年、そして便利堂創業130年の当年です。これを記念し、そのままですが・・・「鉄斎と便利堂」展を開催します。今週22日土曜日から来月11日まで会期中無休です!

鉄斎21

近代文人画の巨匠・富岡鉄斎(1836-1924)は京都に生まれ、幼い頃から国学、儒学、仏教等の学問を広く修めます。書画にも親しみ、89歳で亡くなるまで、多くの作品(仙境図などの山水画、中国や日本の故事・古典に取材した人物画や神仙画、風俗画、花卉・鳥獣画など多岐にわたる)を世に送り出しました。便利堂が創業したのは、富岡鉄斎が50歳の頃。ご存知のように、これ以降、歳を経るにつれて鉄斎の創作は質量ともに、どんどん高まっていきます。おなじ京都、というよりも、新町竹屋町の便利堂と室町一条の鉄斎宅はとても近所で(徒歩10分!)、当然のように交流がありました。

『文藝倶楽部』
『文藝倶楽部』第1号 明治21年 便利堂発行 (右:鉄斎「天橋立」部分拡大)

「京都の山水」
『京都の山水』 明治36年 便利堂発行 (題字:富岡鉄斎 画:竹内栖鳳)

鉄斎と便利堂の交流は、おそらく、便利堂が明治21年に刊行した雑誌『文芸倶楽部』の表紙絵を寄稿してもらったことに始まります。その後も刊行物の題字を依頼するなど関係はつづき、大正時代つまり鉄斎の円熟期には、数多くの画集制作を受注するようになります鉄斎も、会心の作が出来上がると、ただちに便利堂の写真技師を自宅に呼び撮影を注文します。撮影は作品だけではなく、鉄斎夫婦や一家の撮影をおこなうほど親密な関係であったと伝わっています。

3写真
鉄斎と家族(右から2人目の少年が孫で鉄斎美術館初代館長となる富岡益太郎) 大正9年(1920)頃 便利堂撮影

たとえばひとつに、「不敬事件」で国内を流浪していた内村鑑三を、便利堂創業者・中村弥二郎が明治28年から1年間、中村家の離れを住まいとして提供し、その後も深い交流をもったことは以前にもお伝えしたとおりですが(コロタイプと絵はがき:明治期の便利堂 美術絵はがきことはじめ http://takumisuzuki123.blog.fc2.com/blog-entry-36.html)、その京都時代の内村鑑三は糊口をしのぐために鉄斎の長男・謙蔵の英語教師をしていたのは、便利堂が仲を取り持ったと考えるのが自然です。

本展では、明治の創業間もないころより始まった鉄斎と便利堂の縁、深いつながりについて、コロタイプ複製を中心に鉄斎原画や資料類などの数々をご紹介し、知っていただきたいと考えています。展示のみどころをご紹介します。


1、鉄斎原画

観瀑滌心図
富岡鉄斎筆「観瀑滌心図」 大正3年 便利堂所蔵

こうした親密な関係をうかがい知ることができるのが、鉄斎本人から便利堂に贈られた原画作品であり、これら作品の一部は便利堂に現在も所蔵されてます。そのうち最も優れた1点が「観瀑滌心図(かんばくてきしんず)」です。普段は京都国立博物館に寄託している作品ですが、本展で特別展示します。もちろん初公開です。

5軸裏ならびに箱書

賛が「瀑布天落」に始まるように、まさに天から降りそそぐようなしぶきがこちらまで飛んできそうなほどの豪快さを感じさせます。箱書「大正参年大暑日。為便利堂主。鉄斎画并自題」より、大正3年(1914)の「大暑」の日(7月23日頃)に制作して便利堂に贈られた作品であることがわかります。鉄斎79歳の作です。軸裏には「拙畫聊答撮影之労(この絵は撮影の労に対するほんの気持ちです)。便利堂様。富岡鉄斎」と添紙が貼られています。真夏の盛り、何か大掛かりな撮影の依頼があったのでしょうか、汗みずくの写真技師たちの奮闘をねぎらい、その御礼として、この見ているだけで涼しくなる作品が贈られたのです。

その他の原本展示:
・「陸羽図」大正4年(1915) 80歳 所蔵:便利堂
・「大國大神神影」大正4年(1915) 80歳 所蔵:便利堂
・「梅花図」大正10年(1921) 86歳 所蔵:便利堂


2、画集

2画集1

前述しましたように、便利堂は大正時代より鉄斎の画集制作を数多く手掛けており、この時代の画集としては、次の5冊があります。モノクロ図版はすべてコロタイプで和綴じ本です。もちろん100年近く前の図版が鮮明に残っています(これが本当の「100年プリント」です!)。

・『鉄斎画賸』 大正2年 発行:中村梧一
・『掃心図画』 大正10年 発行:髙島屋呉服店美術部
・『米寿墨戯』 大正13年 発行:髙島屋呉服店美術部
・『鉄斎先生遺墨集』(上・中・下) 大正14年 発行:便利堂

8試筆帖2
・『鉄斎先生試筆帖』 大正15年 発行:便利堂

大型本が多いのですが、ここで紹介したいのは、とても小ぶりな『鉄斎先生試筆帖』という画集です。葉書大の作品図版が15点収録されています。これがどういった本なのか、「便利堂主」による奥書を抜粋します。

10a奥書

「故富岡鉄斎先生、明治四十三年末弊堂の新年絵葉書用として勅題の一幀を恵与さる、而して爾来年々継続して芳情は遂に逝去の年に迨ひたり。洵に先生の殊恩にして恐らく他に類例を見ざるの光栄なり。乃ち、之を集めて一巻を作る。これ実に先生試筆の年譜にして先生の進境老熟の順序を知るの好資料たり。成るに及んで恭しく先生の霊前に捧げ又同行の士に頒つ。
大正乙丑菊月創業二十周年の日    便利堂主謹識」

試筆帖M432
富岡鉄斎筆「寒月照梅花」 明治44年勅題 (『試筆帖』より)
奥書にある明治43年末に書き下ろされた新年絵はがきの最初。残念ながら絵はがきは現存せず。 


これによると、本書は大正14年(1925)、鉄斎が亡くなった翌年に出版されています。便利堂が鉄斎に注文購入していたのか、本当の意味で鉄斎から「恵与」されていたのか、厳密なやりとりは不明ですが、明治43年(1910)より鉄斎最晩年までの15年間にわたり、新年絵はがき用として便利堂のために描き下ろしてくれていたことは確かです。おそらく鉄斎には多方面から「新年の勅題で」などと数多くの注文が寄せられていたでしょうし、また自ら描き贈ったことが想像できますが、明治43年から毎年、15年も欠かさずに描いてくれたのは、鉄斎が便利堂に特別な思いを持っていたからこそで、きわめて深い関係にあったことがうかがえます。残念ながら、この『試筆帖』掲載の15点の原画は便利堂には伝わっておらず、鉄斎美術館がそのうちの3点を所蔵するほかは、所在がわかっていません。

9a松上鶴
明治四十五年勅題「松上鶴」の年賀状と『試筆帖』掲載図版。この年賀状は、宛名に鉄斎の長男・謙蔵の名前が刷りこまれたバージョンも存在しており、便利堂での販売用と富岡家用を兼ねて制作されていたと思われる。絵はがき所蔵:清荒神清澄寺 鉄斎美術館

また奥書には「創業二十周年の日」とありますが、これは明治20年の便利堂の創業ではなく、明治38年(1905)便利堂コロタイプ工房の開設の年を指しています。この便利堂主とは、中村家三男・田中伝三郎であり、まさに本書発行のこの年に長兄・弥左衛門より代表を承継し3代目に就任したばかりでした。その伝三郎が、コロタイプ工房の開設を便利堂の「創業」と考えたとすれば、私たちにとってはそれも興味深いところです。おそらく、創業時の「書店事業」、2代目弥左衛門時代の「絵はがき事業」、そしてそれに続く「コロタイプ事業」のスタートが伝三郎にとって第3の創業と位置付けられていたのでしょう。

試筆帖T1
左上より大正2年以降の年賀はがき。一部、木版色刷りのカラー版も制作していたことがわかる。いずれも所蔵:清荒神清澄寺 鉄斎美術館


3、コロタイプ複製――鉄斎と清荒神そして便利堂

聚沙為塔図
「聚沙為塔図」大正6年(1917)82歳 コロタイプ複製(80%縮小) 原本・複製とも清荒神清澄寺 鉄斎美術館所蔵

兵庫県宝塚市に、真言三宝宗大本山の清荒神清澄寺というお寺があります。このお寺では、先々代の法主が晩年の鉄斎と交流を結び、作品蒐集を始め、鉄斎作品の所蔵数は2000余点、日本一のコレクションで知られ、昭和50年(1975)には、境内に鉄斎美術館を開館します(http://www.kiyoshikojin.or.jp/museum/)。

清澄寺と便利堂は、やはり鉄斎を通じて出会いました。最初の仕事は『鉄斎先生墨宝』と題する、コロタイプ版250ページにおよぶ和綴じの豪華画集(大阪市立美術館展覧会図録)制作です(上掲、画集図版参照)。奥付には、「昭和十一年十一月廿七日発行、清荒神百錬会編纂、印刷者佐藤浜次郎、発行所便利堂」とあります。本展では、画集とともに当時のコロタイプ原版も展示します。

月ヶ瀬図巻
 「月ヶ瀬図巻」50歳代 コロタイプ複製 原本所蔵:奈良市 複製所蔵:清荒神清澄寺 鉄斎美術館

以降、収蔵鉄斎作品の撮影、鉄斎美術館の宣伝物受注、展覧会の図録制作などにあたりました。鉄斎作品のコロタイプ複製による記念品や便利堂が販売する複製商品も数多く制作させていただき、昭和40年代からは『鉄斎研究』という研究書の編集・発行のお手伝いをするなど、現在に至るまで、まるで家族のような付き合いをさせてもらっています。

今回の展示にも多大なご協力をいただき、「聚沙為塔図(しゅうさいとうず)」はじめ、清澄寺の法要記念の扇子など、便利堂が制作したコロタイプ複製、前述の『試筆帖』掲載の新年絵葉書(残念ながら便利堂には数点しか残っていません)をお借りし、展示します。ぜひご覧ください。

その他の複製:
・「平安勝景図」扇子 富岡鉄斎生誕150年記念 所蔵:清荒神清澄寺 鉄斎美術館
・「花中君子図」扇子 本堂解体修理落慶記念 所蔵:清荒神清澄寺 鉄斎美術館
・「仏法僧鳥図(箱書共)」扇子 弘法大師入定1150年御遠忌記念 所蔵:清荒神清澄寺 鉄斎美術館
・「昇天龍図」 便利堂複製商品 原本所蔵:清荒神清澄寺 鉄斎美術館
・「朝晴雪図」 便利堂複製商品 原本所蔵:清荒神清澄寺 鉄斎美術館
・「瓢中快適図」 便利堂複製商品 原本所蔵:清荒神清澄寺 鉄斎美術館

以上、一部ですが、みどころをご紹介しました。鉄斎と便利堂の関係をあらわすエピソードは、もっとあるような気がしていますが、ひきつづき資料の整理にあたり、興味深い資料が出てきたら、報告します。これまでのコロタイプのギャラリー展示とは少し趣がちがいますが、「今年やらなければいつやる!(今でしょ!)」という記念展です。チカラ入ってます!ぜひお越しください。



コロタイプギャラリー秋季展
富岡鉄斎生誕180年・便利堂創業130年記念
「鉄斎と便利堂」

2016年10月22日(土)~11月11日(金)
11:00~18:00 期間中無休
協力/清荒神清澄寺・鉄斎美術館



プロフィール

takumi suzuki

Author:takumi suzuki
【コロタイプの過去・現在・未来。創業明治20年の京都 便利堂が100年以上にわたって続けているコロタイプ工房より最新の情報をお届けします】
Japanese:www.benrido.co.jp
English:www.benrido-collotype.today

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