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横浜の名勝三溪園で開催中! 襖絵の原本・コロタイプの見比べができます!

Posted by takumi suzuki on 28.2020 【今日のコロタイプ】    0 comments   0 trackback
企画展「臨春閣-建築の美と保存の技-」
@三溪記念館 2020年10月15日(木)〜12月20日(日)

並置(小) 1 (2)

 こんにちは。便利堂の藤岡です。
今回は、横浜の国指定名勝三溪園(三溪記念館)で開催中のコロタイプ複製に関連した企画展のお知らせです。
伝狩野永徳「芦雁図」襖絵4面の原本とコロタイプが並べて展示されるという、複製が完成して以来、初のこころみです。職人技の粋を集め、できる限り最高の複製をつくるべく、日々精進していますが、こうして原本と並べて展示されてご覧いただくことは、大変ありがたいことであるとともに、反面アラが露呈しないかとドキドキします。(手前が原本、奥が複製)

三溪園内苑1

 本題に入る前にすこし長めの前口上を・・・
 三溪園は、明治から大正時代にかけて生糸の貿易で財をなした実業家・原三溪が造り上げ、明治39年(1906)5月に一般公開されました。広大な園内には、京都や鎌倉などから移築された歴史的に価値の高い建造物(数寄屋・茶室・仏殿・塔・門など)を配し、10棟が国重要文化財に、3棟が横浜市有形文化財に指定されています。
 そのなかに臨春閣(重文)という建物があります。もとは紀州徳川家の別荘と考えられる御殿を移築したもので、内部は繊細優美な意匠が随所にみられ、また狩野派を中心とする障壁画が多数描かれています。

臨春閣内
コロタイプ複製の障壁画が貼り込まれた臨春閣内部

 現在臨春閣で貼り込まれている障壁画、じつはコロタイプによる複製なんです! 日本の伝統建築は内と外の区分けが明確でなく、障壁画など装飾調度品は、多かれ少なかれ、外気にさらされているといえます。臨春閣の障壁画も、経年による傷みが激しく、複製に取り替える話がもちあがると、原本(オリジナル)を忠実に再現し、そうした環境下でも永年にわたり品質を保持することができる便利堂のコロタイプが、複製技法に選ばれたのです。耐候性にすぐれた手漉き和紙(越前鳥の子紙)ときわめて相性がよいのも、コロタイプのおおきな特徴のひとつです。

DSC_0897.jpg
原寸撮影されたアナログフィルム(これがそのままコロタイプの版となります)

 そうして平成3年(1991)臨春閣内部の襖と壁面に描かれた水墨画約100点の複製に着手します(30年ちかく前の話ですね・・・)100点といっても、たとえば襖1面を写真を撮影するにも、原寸で撮影するため1カットでは済みません。もちろん、複製もそれに合わせて分割で制作しますので、撮影、印刷ともに膨大なカット数、台数(=版数・紙数)にのぼります。

 撮影では、スケジュールを第一次と第二次に分け、コロタイプ用分解撮影(大全サイズ)202カット×2色、896カット×1色、および色見用カラーポジ(8×10)撮影108カットにのぼりました。写真部の「作業記録」によると、第一次撮影は平成3年9月10日〜21日、第二次撮影が平成4年5月29日〜6月12日となっていますから、あわせて25日以上かかっています。「大全サイズ」ということは、いわゆる「大判フィルムによるアナログ撮影」であり、原寸撮影ができるコロタイプ用のタテ型カメラが出張しています(タテ型カメラについては→ http://takumisuzuki123.blog.fc2.com/blog-category-6-2.html)。

DSC_0898 1
撮影されたフィルム(大全サイズ)

 コロタイプ印刷のほうでは、時間・予算がかぎられたなか、工夫をしていて、複製をAとBふたつの方式に分けて作業進行しています。当時のメモによると、A方式は「原本を原寸大で2色撮影し、スミ版および地色版を製版し、印刷する。原本は料紙の破損・汚れ・シミ等がひどく、これらの原本の通りには表現しないという基本的な三溪園のご方針に沿って進め」、B方式は「原本を(同じく原寸で)スミ版のみ1色撮影し、地色版は(傷・汚れ・補修のあとを抹消するために)それぞれにベタ刷りで印刷した上にスミ版を印刷し、他の色は(地色の調子もふくめて)全体を着彩して表現する」とあります。

補彩2
現地における補彩作業(当時) 原本を前にして作業を行います

 デジタル製版できる現在では、シミ・傷・汚れなどはある程度まで容易に修正することができますが、この当時のアナログフィルムにおける修正は簡単なことではないので、撮影前にきっちりと製版・印刷の方針を組み立てないといけません。また、三溪園さんのご意向としては、現状の傷みは再現せず、きれいめに、そして部分によっては描かれた当時の復元を望まれていたようです。そのような加減ができるのも、複製ならではといえるでしょう。

補彩1
複製の貼りこみ作業(当時)
 
 さらに、そこから襖仕立てと壁面張り込み作業がありますので、すべての完了は平成6年秋。じつに3年以上の歳月をかけた大事業でした。文化財(原本)を護るとともに、ひろく公開にも耐えうる、まさにコロタイプによる文化財複製の意義がもっとも活かされた仕事といえます。


IMG_4103.jpg

 さて、本題です。
 この臨春閣が現在、屋根の葺き替えと耐震補強の工事を行っています。これに伴い、コロタイプ障壁画はいったん取り外されることになりました。壁画のほうは捲り取り、京都に持ち帰って軽くクリーニングをおこなったうえで(おおきな傷みはみられませんでした)工事完了後に再度張り戻すことになりました。作業にあたるのは、襖仕立てと貼り込み作業をお願いした職人さんたち。30年近くを経て代替わりしていますが、先代さんもお元気で、現地作業に参加してくれています! 

IMG_7609.jpg
複製の取り外し作業

 本来ならそろそろ貼り戻し作業にかかり、来年2月頃にはすべて完了する予定でしたが、コロナの影響で工事じたいが大幅に延期され、元の場所にもどったコロタイプ障壁画がみられるのは、もうすこし先になりそうです。とはいえ、三溪園さんがこうして大切に、原本同様に取り扱ってくださっているのは大変ありがたいですね。

原本(小)_1
原本

コロタイプ(小)_1
複製

 またこの間、屋内のその他の欄間や装飾品も取り外し、状態の良くないものは修理を施したうえで、臨春閣に戻す前に、三溪記念館で特別公開されます。今回、便利堂も修復のお手伝いをさせてもらいました。その他、臨春閣が大阪にあったころに描かれた図面や、臨春閣購入の経緯を示す資料など珍しいものもみられるそうです。
 そして、伝狩野永徳「芦雁図」襖絵4面の原本とコロタイプが並べて展示されることとなりました。これまでも原本は記念館で保管され、順番に展示公開されているのですが、こうして複製と並べられるのは初めてとのこと。

 三溪園学芸員の北泉剛史さんからもコメントを寄せてもらいました。
「今回の展示は、臨春閣が大規模に保存修理工事を行っているからこそ、現地から取り外して展覧会として開催できるものです。今後、再びそれぞれの装飾品を現地から取り外してお披露目できる機会は、間違いなく二度とありませんし、こういった展覧会ができるのは、まさに三溪園ならではです。またコロタイプ印刷は、技術そのものが文化財に値するものですし、今回の展覧会の主旨・副題でもあります『保存の技』であると思っています」

 そういえば、日本画家の山口晃さんも、共著書の企画で臨春閣のコロタイプ障壁画を間近に見て、4コマ漫画に「ぜんぜん解らない。すごい出来だ」と語ってくれています。「原本の通りには表現しない」方針でつくられた複製でも、コロタイプなら本物にみえる!ということで。。ちょっとドキドキしますが、ぜひ足を運んでください! 12月20日まで。


重要文化財保存修理事業記念
企画展「臨春閣-建築の美と保存の技-」
会場:三溪記念館(横浜市中区本牧三之谷58-1 三溪園内)
会期:2020年10月15日(木)〜12月20日(日)
時間:9:00〜17:00(入場は16:30まで)
観覧料:無料(三溪園入園料でご覧いただけます)
交通:JR根岸線根岸駅からバスで10分「本牧」下車、徒歩10分/横浜駅東口、桜木町駅などからバスで「三溪園入口」下車、徒歩5分
https://www.sankeien.or.jp/


プロフィール

takumi suzuki

Author:takumi suzuki
【コロタイプの過去・現在・未来。創業明治20年の京都 便利堂が100年以上にわたって続けているコロタイプ工房より最新の情報をお届けします】
Japanese:www.benrido.co.jp
English:www.benrido-collotype.today

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