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コロタイプギャラリー次回展のお知らせ 「鉄斎と便利堂」展

Posted by takumi suzuki on 19.2016 【コロタイプギャラリー】   2 comments   0 trackback
富岡鉄斎生誕180年・便利堂創業130年を記念して開催!
2016年10月22日(土)~11月11日(金) 11:00~18:00 期間中無休 @便利堂コロタイプギャラリー

鉄斎展

fujioka.jpg

ご無沙汰しています、コロタイプギャラリー支配人の藤岡です。
しばらく支配人代理に任せっぱなしでしたが、今回は私から秋季企画展のお知らせです。

今回のテーマは鉄斎!
本2016年は、富岡鉄斎生誕180年、そして便利堂創業130年の当年です。これを記念し、そのままですが・・・「鉄斎と便利堂」展を開催します。今週22日土曜日から来月11日まで会期中無休です!

鉄斎21

近代文人画の巨匠・富岡鉄斎(1836-1924)は京都に生まれ、幼い頃から国学、儒学、仏教等の学問を広く修めます。書画にも親しみ、89歳で亡くなるまで、多くの作品(仙境図などの山水画、中国や日本の故事・古典に取材した人物画や神仙画、風俗画、花卉・鳥獣画など多岐にわたる)を世に送り出しました。便利堂が創業したのは、富岡鉄斎が50歳の頃。ご存知のように、これ以降、歳を経るにつれて鉄斎の創作は質量ともに、どんどん高まっていきます。おなじ京都、というよりも、新町竹屋町の便利堂と室町一条の鉄斎宅はとても近所で(徒歩10分!)、当然のように交流がありました。

『文藝倶楽部』
『文藝倶楽部』第1号 明治21年 便利堂発行 (右:鉄斎「天橋立」部分拡大)

「京都の山水」
『京都の山水』 明治36年 便利堂発行 (題字:富岡鉄斎 画:竹内栖鳳)

鉄斎と便利堂の交流は、おそらく、便利堂が明治21年に刊行した雑誌『文芸倶楽部』の表紙絵を寄稿してもらったことに始まります。その後も刊行物の題字を依頼するなど関係はつづき、大正時代つまり鉄斎の円熟期には、数多くの画集制作を受注するようになります鉄斎も、会心の作が出来上がると、ただちに便利堂の写真技師を自宅に呼び撮影を注文します。撮影は作品だけではなく、鉄斎夫婦や一家の撮影をおこなうほど親密な関係であったと伝わっています。

3写真
鉄斎と家族(右から2人目の少年が孫で鉄斎美術館初代館長となる富岡益太郎) 大正9年(1920)頃 便利堂撮影

たとえばひとつに、「不敬事件」で国内を流浪していた内村鑑三を、便利堂創業者・中村弥二郎が明治28年から1年間、中村家の離れを住まいとして提供し、その後も深い交流をもったことは以前にもお伝えしたとおりですが(コロタイプと絵はがき:明治期の便利堂 美術絵はがきことはじめ http://takumisuzuki123.blog.fc2.com/blog-entry-36.html)、その京都時代の内村鑑三は糊口をしのぐために鉄斎の長男・謙蔵の英語教師をしていたのは、便利堂が仲を取り持ったと考えるのが自然です。

本展では、明治の創業間もないころより始まった鉄斎と便利堂の縁、深いつながりについて、コロタイプ複製を中心に鉄斎原画や資料類などの数々をご紹介し、知っていただきたいと考えています。展示のみどころをご紹介します。


1、鉄斎原画

観瀑滌心図
富岡鉄斎筆「観瀑滌心図」 大正3年 便利堂所蔵

こうした親密な関係をうかがい知ることができるのが、鉄斎本人から便利堂に贈られた原画作品であり、これら作品の一部は便利堂に現在も所蔵されてます。そのうち最も優れた1点が「観瀑滌心図(かんばくてきしんず)」です。普段は京都国立博物館に寄託している作品ですが、本展で特別展示します。もちろん初公開です。

5軸裏ならびに箱書

賛が「瀑布天落」に始まるように、まさに天から降りそそぐようなしぶきがこちらまで飛んできそうなほどの豪快さを感じさせます。箱書「大正参年大暑日。為便利堂主。鉄斎画并自題」より、大正3年(1914)の「大暑」の日(7月23日頃)に制作して便利堂に贈られた作品であることがわかります。鉄斎79歳の作です。軸裏には「拙畫聊答撮影之労(この絵は撮影の労に対するほんの気持ちです)。便利堂様。富岡鉄斎」と添紙が貼られています。真夏の盛り、何か大掛かりな撮影の依頼があったのでしょうか、汗みずくの写真技師たちの奮闘をねぎらい、その御礼として、この見ているだけで涼しくなる作品が贈られたのです。

その他の原本展示:
・「陸羽図」大正4年(1915) 80歳 所蔵:便利堂
・「大國大神神影」大正4年(1915) 80歳 所蔵:便利堂
・「梅花図」大正10年(1921) 86歳 所蔵:便利堂


2、画集

2画集1

前述しましたように、便利堂は大正時代より鉄斎の画集制作を数多く手掛けており、この時代の画集としては、次の5冊があります。モノクロ図版はすべてコロタイプで和綴じ本です。もちろん100年近く前の図版が鮮明に残っています(これが本当の「100年プリント」です!)。

・『鉄斎画賸』 大正2年 発行:中村梧一
・『掃心図画』 大正10年 発行:髙島屋呉服店美術部
・『米寿墨戯』 大正13年 発行:髙島屋呉服店美術部
・『鉄斎先生遺墨集』(上・中・下) 大正14年 発行:便利堂

8試筆帖2
・『鉄斎先生試筆帖』 大正15年 発行:便利堂

大型本が多いのですが、ここで紹介したいのは、とても小ぶりな『鉄斎先生試筆帖』という画集です。葉書大の作品図版が15点収録されています。これがどういった本なのか、「便利堂主」による奥書を抜粋します。

10a奥書

「故富岡鉄斎先生、明治四十三年末弊堂の新年絵葉書用として勅題の一幀を恵与さる、而して爾来年々継続して芳情は遂に逝去の年に迨ひたり。洵に先生の殊恩にして恐らく他に類例を見ざるの光栄なり。乃ち、之を集めて一巻を作る。これ実に先生試筆の年譜にして先生の進境老熟の順序を知るの好資料たり。成るに及んで恭しく先生の霊前に捧げ又同行の士に頒つ。
大正乙丑菊月創業二十周年の日    便利堂主謹識」

試筆帖M432
富岡鉄斎筆「寒月照梅花」 明治44年勅題 (『試筆帖』より)
奥書にある明治43年末に書き下ろされた新年絵はがきの最初。残念ながら絵はがきは現存せず。 


これによると、本書は大正14年(1925)、鉄斎が亡くなった翌年に出版されています。便利堂が鉄斎に注文購入していたのか、本当の意味で鉄斎から「恵与」されていたのか、厳密なやりとりは不明ですが、明治43年(1910)より鉄斎最晩年までの15年間にわたり、新年絵はがき用として便利堂のために描き下ろしてくれていたことは確かです。おそらく鉄斎には多方面から「新年の勅題で」などと数多くの注文が寄せられていたでしょうし、また自ら描き贈ったことが想像できますが、明治43年から毎年、15年も欠かさずに描いてくれたのは、鉄斎が便利堂に特別な思いを持っていたからこそで、きわめて深い関係にあったことがうかがえます。残念ながら、この『試筆帖』掲載の15点の原画は便利堂には伝わっておらず、鉄斎美術館がそのうちの3点を所蔵するほかは、所在がわかっていません。

9a松上鶴
明治四十五年勅題「松上鶴」の年賀状と『試筆帖』掲載図版。この年賀状は、宛名に鉄斎の長男・謙蔵の名前が刷りこまれたバージョンも存在しており、便利堂での販売用と富岡家用を兼ねて制作されていたと思われる。絵はがき所蔵:清荒神清澄寺 鉄斎美術館

また奥書には「創業二十周年の日」とありますが、これは明治20年の便利堂の創業ではなく、明治38年(1905)便利堂コロタイプ工房の開設の年を指しています。この便利堂主とは、中村家三男・田中伝三郎であり、まさに本書発行のこの年に長兄・弥左衛門より代表を承継し3代目に就任したばかりでした。その伝三郎が、コロタイプ工房の開設を便利堂の「創業」と考えたとすれば、私たちにとってはそれも興味深いところです。おそらく、創業時の「書店事業」、2代目弥左衛門時代の「絵はがき事業」、そしてそれに続く「コロタイプ事業」のスタートが伝三郎にとって第3の創業と位置付けられていたのでしょう。

試筆帖T1
左上より大正2年以降の年賀はがき。一部、木版色刷りのカラー版も制作していたことがわかる。いずれも所蔵:清荒神清澄寺 鉄斎美術館


3、コロタイプ複製――鉄斎と清荒神そして便利堂

聚沙為塔図
「聚沙為塔図」大正6年(1917)82歳 コロタイプ複製(80%縮小) 原本・複製とも清荒神清澄寺 鉄斎美術館所蔵

兵庫県宝塚市に、真言三宝宗大本山の清荒神清澄寺というお寺があります。このお寺では、先々代の法主が晩年の鉄斎と交流を結び、作品蒐集を始め、鉄斎作品の所蔵数は2000余点、日本一のコレクションで知られ、昭和50年(1975)には、境内に鉄斎美術館を開館します(http://www.kiyoshikojin.or.jp/museum/)。

清澄寺と便利堂は、やはり鉄斎を通じて出会いました。最初の仕事は『鉄斎先生墨宝』と題する、コロタイプ版250ページにおよぶ和綴じの豪華画集(大阪市立美術館展覧会図録)制作です(上掲、画集図版参照)。奥付には、「昭和十一年十一月廿七日発行、清荒神百錬会編纂、印刷者佐藤浜次郎、発行所便利堂」とあります。本展では、画集とともに当時のコロタイプ原版も展示します。

月ヶ瀬図巻
 「月ヶ瀬図巻」50歳代 コロタイプ複製 原本所蔵:奈良市 複製所蔵:清荒神清澄寺 鉄斎美術館

以降、収蔵鉄斎作品の撮影、鉄斎美術館の宣伝物受注、展覧会の図録制作などにあたりました。鉄斎作品のコロタイプ複製による記念品や便利堂が販売する複製商品も数多く制作させていただき、昭和40年代からは『鉄斎研究』という研究書の編集・発行のお手伝いをするなど、現在に至るまで、まるで家族のような付き合いをさせてもらっています。

今回の展示にも多大なご協力をいただき、「聚沙為塔図(しゅうさいとうず)」はじめ、清澄寺の法要記念の扇子など、便利堂が制作したコロタイプ複製、前述の『試筆帖』掲載の新年絵葉書(残念ながら便利堂には数点しか残っていません)をお借りし、展示します。ぜひご覧ください。

その他の複製:
・「平安勝景図」扇子 富岡鉄斎生誕150年記念 所蔵:清荒神清澄寺 鉄斎美術館
・「花中君子図」扇子 本堂解体修理落慶記念 所蔵:清荒神清澄寺 鉄斎美術館
・「仏法僧鳥図(箱書共)」扇子 弘法大師入定1150年御遠忌記念 所蔵:清荒神清澄寺 鉄斎美術館
・「昇天龍図」 便利堂複製商品 原本所蔵:清荒神清澄寺 鉄斎美術館
・「朝晴雪図」 便利堂複製商品 原本所蔵:清荒神清澄寺 鉄斎美術館
・「瓢中快適図」 便利堂複製商品 原本所蔵:清荒神清澄寺 鉄斎美術館

以上、一部ですが、みどころをご紹介しました。鉄斎と便利堂の関係をあらわすエピソードは、もっとあるような気がしていますが、ひきつづき資料の整理にあたり、興味深い資料が出てきたら、報告します。これまでのコロタイプのギャラリー展示とは少し趣がちがいますが、「今年やらなければいつやる!(今でしょ!)」という記念展です。チカラ入ってます!ぜひお越しください。



コロタイプギャラリー秋季展
富岡鉄斎生誕180年・便利堂創業130年記念
「鉄斎と便利堂」

2016年10月22日(土)~11月11日(金)
11:00~18:00 期間中無休
協力/清荒神清澄寺・鉄斎美術館



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このコメントは管理人のみ閲覧できます
2016.10.20 01:16 | | # [edit]
藤岡様!資料を詳しく見た結果、清荒神と鉄斎の関係もよくわかりました。先ほどは、愚問で失礼いたしました。
2016.10.20 01:24 | URL | 公文 明 #- [edit]


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