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審光写場開設80周年記念 「佐藤浜次郎 ハール・フェレンツ 二人展」
ギャラリースペースも広くなりました!
2021年10月1日(金)~11月19日(金)@便利堂コロタイプギャラリー

みなさんこんにちは。ようやく秋めいて朝晩は過ごしやすくなってきましたね。そんな中、コロタイプギャラリーでは新しい展示がスタートしました。本日は2021年秋季企画展示 審光写場開設80周年記念「佐藤浜次郎 ハール・フェレンツ二人展」をご紹介します。展示を担当した清さんに見どころをお聞きしました。

―――今回、コロタイプギャラリーに大きな変化がありましたね。
「そうなんです。実は、ギャラリーのスペースがより広がりました。今回は二人展ですが、部屋が二つになったことで、ハール・フェレンツパートと佐藤浜次郎パートに分け、お二人の作品をじっくりご覧いただけるよう展示しています。」

ギャラリーの壁に新たな入り口が。。
―――では、まずハール・フェレンツさんをご紹介いただけますか。

Francis Haar, 1908-97 ©Tom Haar 不許複製
「ハンガリー出身のハール・フェレンツさん(英語名:フランシス・ハール)は戦前に来日し、日本の文化や風景を撮影してきた写真家、映画監督です。明治41(1908)年にハンガリーの小さな町で生まれた彼は、ブタペストでインテリアと建築デザインを学び建築事務所で働き始めましたが、若手芸術家たちとの交流をきっかけにカメラに興味を持ち、独学で撮影を始めます。その後ハンガリーで写真家として成功したのちパリへと移り住みました。しかし昭和14(1939)年末、第二次大戦によってパリを離れることを考えた彼は、以前ポートレートを撮影した日本人 川添浩史氏の助けにより日本へやってきます。ハールさんはとりわけ日本の風景と文化を気に入り、ポートレートを撮りつつ、風景写真や日本の風俗、歌舞伎や舞妓などを数多く撮影し、何冊かの作品集を出版しました。便利堂ではそのうち2冊を制作しています。」

便利堂が制作したコロタイプ写真集、『ハンガリヤ』(1941)と『富士山麓』(1942)
『ハンガリヤ』についてくわしくはこちら
―――そのように便利堂との関係が築かれたのですね。一方の佐藤浜次郎さんはどんな方でしょう?

佐藤浜次郎, 1894-1950
「佐藤浜次郎は便利堂の写真工房の礎を築いた非常に重要な人物です。彼は日本の文化財写真史に残る昭和10(1935)年の法隆寺金堂壁画原寸大撮影をはじめ、文化財撮影の第一線で活躍した撮影技師です。」
―――浜次郎さんはどのような経緯で便利堂へ来られたのですか?
「彼は明治27(1894)年に横浜に生まれました。11歳で父と死に別れると東京の辻本写真工藝社に丁稚奉公に出ます。辻本写真工藝社は写真印刷製版の名門で、ここで原色版(網目銅板凸版印刷)の写真撮影技術を身に付けます。その手腕は群を抜き、17、8歳頃には、原色版用撮影ではほかの3倍もの仕事をしたといいます。便利堂は、辻本写真工藝社がグラビア印刷へシフトしたことを機に、原色版工房の印刷設備、工員を移譲、いまでいうM&Aを行って、コロタイプと並んで原色版の工房を開設しました。浜次郎さんは、ほかの工員を引き連れ京都に移ってくることになったのです。そうした確かな技術を持った人たちが便利堂にやってきたことにより、便利堂の写真技術は大きく飛躍し、原色版は便利堂の代名詞ともなりました。」

審光写場(応接室) ©Tom Haar 不許複製
―――お二人にどんどん興味がわいてきました。さて、今回は「審光写場開設80周年」を記念しての展示です。「審光写場」とは何ですか?
「昭和16(1941)年秋、ハールさんと浜次郎さんをカメラマンとして迎え、便利堂が銀座に開設した写真スタジオです。ポートレートから文化財写真まで幅広く手掛けたものの、太平洋戦争による東京の空襲でスタジオは焼失してしまいました。戦争によって2年半と短命ではありましたが、明治から始まった文化財写真と芸術写真が、世界と日本が融合したとてもユニークな試みでした。また、来日中だったデザイナー、シャルロット・ぺリアンによる内装もすてきでした。建物の設計は坂倉準三です。」

審光写場(スタジオ) ©Tom Haar 不許複製
―――二人がともに過ごした場所なんですね。ただ、撮影対象はまったく違うようです。
「「カメラ」という同じ機械を手にしながら二人の写真テーマは全く異なります。ハールさんは彼の心に留まった主観が入った写真、一方で浜次郎さんはいわゆる記録写真ですから非常に客観的な撮影です。今回の展示では、浜次郎さんとハールさんというカメラを愛する二人がそれぞれどんな思いでレンズをのぞいたのか、ぜひみなさんにご覧いただきたいです。」

左より、コロタイプ:精進湖より富士を望む(1940), 皇居二重橋(1940-50), 法隆寺夢殿にて(1940-50)
―――ではまずハールさんの展示について教えてください。
「今回の展示では昭和25(1950)年に刊行されたポートフォリオ『PICTORIAL JAPAN』からプリント作品を10点、さらに本展に合わせ新たにコロタイプでプリントした2点の作品を展示し、彼の日本での活動を紹介します。ハールさんは日本に滞在した20年の間で、日本文化を世界に紹介する写真や映画を制作しました。戦前から戦後の日本を記録してきたハンガリー生まれの写真家がどんな目線で日本を見ていたのか。彼の目を通して、日本の伝統と文化のエスプリをこの展示で感じていただけるのではないかと思います。ぜひ多くの方にこんな写真家がいたことを知っていただきたいですね。」

左より、ことも祭り(1949), コロタイプ:繭玉の収穫、 富士山麓にて(1950), 勧進帳(1940-50)
―――今回の展示では、ハールさんの書籍も販売されるんですね。
「そうなんです。写真集『A Life time of Images』はハンガリー、パリ、日本、シカゴ、ホノルルと各地で撮影した写真作品とハールさんの言葉で綴られた回想録が収められた彼の集大成ともいえる一冊です。今回、二人展を記念して『A Life time of Images』を部数限定で発売します。また『人生は映像とともに』(監修:トム・ハール)は収録されている回想録を訳出したものです。彼自身が語る数奇ともいえる人生と、日本を「記録」したその想いをお楽しみください。あとがきでは、彼の来日した背景や審光写場について詳しく解説しています。」

1,500円(税込・送料無料)
目次: はじめに / ハンガリー, 1908-1937 / パリ, 1937-1939 / 日本, 1940-1960 / シカゴ, 1956-1959 / ハワイ, 1960-1997 / 付録 / 父のこと トム・ハール / あとがき:ハール来日の背景について( 1. “地球人” 川添浩史、2. 1930年代,パリの日本人たち、3. 「日本映画祭」の開催とフィルム・エリオス社の設立,そして帰国、4.1930年代の国際文化交流:国際文化振興会とKBSフォトライブラリー、5. ツラニズムと三井高陽の日洪文化協会、6. 仲小路彰と小島威彦:世界創造社とスメラ学塾、7. 1940年のスメラクラブの誕生とスメル写真研究所、8. ぺリアンの来日と,ハールの活動の拠点「審光写場」の開設、9. おわりに:戦後のハールと川添の文化交流活動)
―――ぜひ読んでみたいです。それでは浜次郎さんの展示についても聞かせてください。
「便利堂の写真工房は、明治の開設以来、文化財の写真撮影を専門にしています。写真工房では「文化財をありのまま記録する」という系譜が現在までずっと引き継がれてきました。そうした意味で、浜次郎さんは、明治大正と積み重ねてきた便利堂写真工房を大成させた、便利堂はもちろんですが、日本の文化財撮影史にその名を遺す人です。今回の展示では彼が便利堂において成し遂げた偉大な功績からいくつかをご紹介します。」

新しい入り口のその先には。。。旧印刷工房跡地をDIYしたギャラリースペースが出現!
―――浜次郎さんの代表的な仕事にはどんなものがありますか?
「彼が取り組んだ大仕事といえば、昭和10(1935)年の法隆寺金堂壁画原寸大撮影でしょう。彼は人生で3度、法隆寺金堂壁画を撮影しており、3度目がこの撮影でした。国の事業が便利堂に委託された理由として、便利堂の撮影技術を評価していただいたことはもちろんですが、浜次郎さんが法隆寺金堂壁画の撮影をすでに2回経験していたことも大きかったと思います。」
⇒法隆寺金堂壁画の原寸大撮影についてくわしくはこちら

当麻曼荼羅撮影中の佐藤浜次郎(左)と、視察に訪れた便利堂四代目中村竹四郎(昭和14年)
―――浜次郎さんへの信頼がうかがえますね。
「この撮影を成功させたことで、文化財撮影において便利堂と撮影技師 佐藤浜次郎の名はより広く知られるようになりました。ちょうどその頃、今では当たり前になった文化財の保存科学分野に力を入れる動きが活発になります。つまり、精密な写真撮影を行って現状を記録し、それを今後の文化財保存や研究に役立てようというものです。その中で法隆寺金堂壁画に次いで調査対象となったのが奈良県にある當麻寺の當麻曼荼羅でした。当時、国華社主幹であった瀧精一博士の依頼で、浜次郎さんは昭和14(1939)年5月に《国宝 當麻曼荼羅図》の原寸大撮影を行いました。今回は、俯瞰による撮影で、法隆寺と同様に特殊なカメラを制作し撮影に臨みました。5月22日の機材搬入から6月1日の撤収まで、11日間を要しました。」

かつて原色版印刷工房があった空間が、広々としたギャラリースペースとしてよみがえりました。
―――恥ずかしながら便利堂が當麻曼荼羅を撮影したことを知りませんでした。
「実は、撮影当時は話題になったものの、あまり注目されることがありませんでした。しかし昭和38(1963)年に當麻曼荼羅は国宝に指定されます。それに際して、当時の撮影乾板を使い120枚ものコロタイププリントが制作されました。今回の展示では法隆寺金堂壁画をはじめとする代表作とともに、近年では忘れられた「もうひとつの原寸大撮影」である《国宝 當麻曼荼羅図》にスポットをあてます。」

壁面の法隆寺金堂壁画複製とともに、ギャラリースペースの中央には、120枚に分割撮影・印刷されたコロタイププリントをつなげて当麻曼荼羅全図の複製を展示しています。踏み台から少し俯瞰で全体をご覧いただけます。
「この当麻曼荼羅の原寸大撮影については、機会を改めてこのブログで詳細に紹介したいと思っています。」

近づいてご覧いただくと、細かいつづれ織りのディテールが確認できます。
―――浜次郎さんパートでは貴重な文化財写真、ハールさんパートでは彼が日本の土地や文化へ向けたまなざしとどちらも見ごたえがありそうです。これから展示をご覧になるみなさまへ一言お願いします。
「写真家ハールさんの目に映った戦前から戦後の日本はどんな場所だったのか、当時の写真家と撮影技師の仕事を対比して見ていただいても面白いと思います。二人とも写真を仕事に同じ時代を生きたわけですが、これだけ違う仕事をしていたのかというところも面白いですよね。また佐藤浜次郎という人が文化財の撮影においていかに偉大な業績を残してきたか、その仕事をご覧になりながら自由に思いを巡らせていただけるとうれしいです。一言で写真といってもまったく違う、でもどちらも重要だということがきっとお伝えできるのではないでしょうか。」

◆
【開催概要】
便利堂コロタイプギャラリー秋季展
審光写場開設80周年記念 「佐藤浜次郎 ハール・フェレンツ 二人展」
2021年10月1日(金)~11月19日(金)
時間:10:00-17:00(全日12:00~13:00と水曜日はお休み)
入場:無料
場所:便利堂本社1Fコロタイプギャラリー
(京都市中京区新町通竹屋町下ル弁財天町 302)

ハールの写真集や映像作品(『天皇』『Arts of Japan』『Japanese Calligraphy』)もご自由に閲覧していただけます。
2021年10月1日(金)~11月19日(金)@便利堂コロタイプギャラリー

みなさんこんにちは。ようやく秋めいて朝晩は過ごしやすくなってきましたね。そんな中、コロタイプギャラリーでは新しい展示がスタートしました。本日は2021年秋季企画展示 審光写場開設80周年記念「佐藤浜次郎 ハール・フェレンツ二人展」をご紹介します。展示を担当した清さんに見どころをお聞きしました。

―――今回、コロタイプギャラリーに大きな変化がありましたね。
「そうなんです。実は、ギャラリーのスペースがより広がりました。今回は二人展ですが、部屋が二つになったことで、ハール・フェレンツパートと佐藤浜次郎パートに分け、お二人の作品をじっくりご覧いただけるよう展示しています。」

ギャラリーの壁に新たな入り口が。。
―――では、まずハール・フェレンツさんをご紹介いただけますか。

Francis Haar, 1908-97 ©Tom Haar 不許複製
「ハンガリー出身のハール・フェレンツさん(英語名:フランシス・ハール)は戦前に来日し、日本の文化や風景を撮影してきた写真家、映画監督です。明治41(1908)年にハンガリーの小さな町で生まれた彼は、ブタペストでインテリアと建築デザインを学び建築事務所で働き始めましたが、若手芸術家たちとの交流をきっかけにカメラに興味を持ち、独学で撮影を始めます。その後ハンガリーで写真家として成功したのちパリへと移り住みました。しかし昭和14(1939)年末、第二次大戦によってパリを離れることを考えた彼は、以前ポートレートを撮影した日本人 川添浩史氏の助けにより日本へやってきます。ハールさんはとりわけ日本の風景と文化を気に入り、ポートレートを撮りつつ、風景写真や日本の風俗、歌舞伎や舞妓などを数多く撮影し、何冊かの作品集を出版しました。便利堂ではそのうち2冊を制作しています。」

便利堂が制作したコロタイプ写真集、『ハンガリヤ』(1941)と『富士山麓』(1942)
『ハンガリヤ』についてくわしくはこちら
―――そのように便利堂との関係が築かれたのですね。一方の佐藤浜次郎さんはどんな方でしょう?

佐藤浜次郎, 1894-1950
「佐藤浜次郎は便利堂の写真工房の礎を築いた非常に重要な人物です。彼は日本の文化財写真史に残る昭和10(1935)年の法隆寺金堂壁画原寸大撮影をはじめ、文化財撮影の第一線で活躍した撮影技師です。」
―――浜次郎さんはどのような経緯で便利堂へ来られたのですか?
「彼は明治27(1894)年に横浜に生まれました。11歳で父と死に別れると東京の辻本写真工藝社に丁稚奉公に出ます。辻本写真工藝社は写真印刷製版の名門で、ここで原色版(網目銅板凸版印刷)の写真撮影技術を身に付けます。その手腕は群を抜き、17、8歳頃には、原色版用撮影ではほかの3倍もの仕事をしたといいます。便利堂は、辻本写真工藝社がグラビア印刷へシフトしたことを機に、原色版工房の印刷設備、工員を移譲、いまでいうM&Aを行って、コロタイプと並んで原色版の工房を開設しました。浜次郎さんは、ほかの工員を引き連れ京都に移ってくることになったのです。そうした確かな技術を持った人たちが便利堂にやってきたことにより、便利堂の写真技術は大きく飛躍し、原色版は便利堂の代名詞ともなりました。」

審光写場(応接室) ©Tom Haar 不許複製
―――お二人にどんどん興味がわいてきました。さて、今回は「審光写場開設80周年」を記念しての展示です。「審光写場」とは何ですか?
「昭和16(1941)年秋、ハールさんと浜次郎さんをカメラマンとして迎え、便利堂が銀座に開設した写真スタジオです。ポートレートから文化財写真まで幅広く手掛けたものの、太平洋戦争による東京の空襲でスタジオは焼失してしまいました。戦争によって2年半と短命ではありましたが、明治から始まった文化財写真と芸術写真が、世界と日本が融合したとてもユニークな試みでした。また、来日中だったデザイナー、シャルロット・ぺリアンによる内装もすてきでした。建物の設計は坂倉準三です。」

審光写場(スタジオ) ©Tom Haar 不許複製
―――二人がともに過ごした場所なんですね。ただ、撮影対象はまったく違うようです。
「「カメラ」という同じ機械を手にしながら二人の写真テーマは全く異なります。ハールさんは彼の心に留まった主観が入った写真、一方で浜次郎さんはいわゆる記録写真ですから非常に客観的な撮影です。今回の展示では、浜次郎さんとハールさんというカメラを愛する二人がそれぞれどんな思いでレンズをのぞいたのか、ぜひみなさんにご覧いただきたいです。」

左より、コロタイプ:精進湖より富士を望む(1940), 皇居二重橋(1940-50), 法隆寺夢殿にて(1940-50)
―――ではまずハールさんの展示について教えてください。
「今回の展示では昭和25(1950)年に刊行されたポートフォリオ『PICTORIAL JAPAN』からプリント作品を10点、さらに本展に合わせ新たにコロタイプでプリントした2点の作品を展示し、彼の日本での活動を紹介します。ハールさんは日本に滞在した20年の間で、日本文化を世界に紹介する写真や映画を制作しました。戦前から戦後の日本を記録してきたハンガリー生まれの写真家がどんな目線で日本を見ていたのか。彼の目を通して、日本の伝統と文化のエスプリをこの展示で感じていただけるのではないかと思います。ぜひ多くの方にこんな写真家がいたことを知っていただきたいですね。」

左より、ことも祭り(1949), コロタイプ:繭玉の収穫、 富士山麓にて(1950), 勧進帳(1940-50)
―――今回の展示では、ハールさんの書籍も販売されるんですね。
「そうなんです。写真集『A Life time of Images』はハンガリー、パリ、日本、シカゴ、ホノルルと各地で撮影した写真作品とハールさんの言葉で綴られた回想録が収められた彼の集大成ともいえる一冊です。今回、二人展を記念して『A Life time of Images』を部数限定で発売します。また『人生は映像とともに』(監修:トム・ハール)は収録されている回想録を訳出したものです。彼自身が語る数奇ともいえる人生と、日本を「記録」したその想いをお楽しみください。あとがきでは、彼の来日した背景や審光写場について詳しく解説しています。」

1,500円(税込・送料無料)
目次: はじめに / ハンガリー, 1908-1937 / パリ, 1937-1939 / 日本, 1940-1960 / シカゴ, 1956-1959 / ハワイ, 1960-1997 / 付録 / 父のこと トム・ハール / あとがき:ハール来日の背景について( 1. “地球人” 川添浩史、2. 1930年代,パリの日本人たち、3. 「日本映画祭」の開催とフィルム・エリオス社の設立,そして帰国、4.1930年代の国際文化交流:国際文化振興会とKBSフォトライブラリー、5. ツラニズムと三井高陽の日洪文化協会、6. 仲小路彰と小島威彦:世界創造社とスメラ学塾、7. 1940年のスメラクラブの誕生とスメル写真研究所、8. ぺリアンの来日と,ハールの活動の拠点「審光写場」の開設、9. おわりに:戦後のハールと川添の文化交流活動)
―――ぜひ読んでみたいです。それでは浜次郎さんの展示についても聞かせてください。
「便利堂の写真工房は、明治の開設以来、文化財の写真撮影を専門にしています。写真工房では「文化財をありのまま記録する」という系譜が現在までずっと引き継がれてきました。そうした意味で、浜次郎さんは、明治大正と積み重ねてきた便利堂写真工房を大成させた、便利堂はもちろんですが、日本の文化財撮影史にその名を遺す人です。今回の展示では彼が便利堂において成し遂げた偉大な功績からいくつかをご紹介します。」

新しい入り口のその先には。。。旧印刷工房跡地をDIYしたギャラリースペースが出現!
―――浜次郎さんの代表的な仕事にはどんなものがありますか?
「彼が取り組んだ大仕事といえば、昭和10(1935)年の法隆寺金堂壁画原寸大撮影でしょう。彼は人生で3度、法隆寺金堂壁画を撮影しており、3度目がこの撮影でした。国の事業が便利堂に委託された理由として、便利堂の撮影技術を評価していただいたことはもちろんですが、浜次郎さんが法隆寺金堂壁画の撮影をすでに2回経験していたことも大きかったと思います。」
⇒法隆寺金堂壁画の原寸大撮影についてくわしくはこちら

当麻曼荼羅撮影中の佐藤浜次郎(左)と、視察に訪れた便利堂四代目中村竹四郎(昭和14年)
―――浜次郎さんへの信頼がうかがえますね。
「この撮影を成功させたことで、文化財撮影において便利堂と撮影技師 佐藤浜次郎の名はより広く知られるようになりました。ちょうどその頃、今では当たり前になった文化財の保存科学分野に力を入れる動きが活発になります。つまり、精密な写真撮影を行って現状を記録し、それを今後の文化財保存や研究に役立てようというものです。その中で法隆寺金堂壁画に次いで調査対象となったのが奈良県にある當麻寺の當麻曼荼羅でした。当時、国華社主幹であった瀧精一博士の依頼で、浜次郎さんは昭和14(1939)年5月に《国宝 當麻曼荼羅図》の原寸大撮影を行いました。今回は、俯瞰による撮影で、法隆寺と同様に特殊なカメラを制作し撮影に臨みました。5月22日の機材搬入から6月1日の撤収まで、11日間を要しました。」

かつて原色版印刷工房があった空間が、広々としたギャラリースペースとしてよみがえりました。
―――恥ずかしながら便利堂が當麻曼荼羅を撮影したことを知りませんでした。
「実は、撮影当時は話題になったものの、あまり注目されることがありませんでした。しかし昭和38(1963)年に當麻曼荼羅は国宝に指定されます。それに際して、当時の撮影乾板を使い120枚ものコロタイププリントが制作されました。今回の展示では法隆寺金堂壁画をはじめとする代表作とともに、近年では忘れられた「もうひとつの原寸大撮影」である《国宝 當麻曼荼羅図》にスポットをあてます。」

壁面の法隆寺金堂壁画複製とともに、ギャラリースペースの中央には、120枚に分割撮影・印刷されたコロタイププリントをつなげて当麻曼荼羅全図の複製を展示しています。踏み台から少し俯瞰で全体をご覧いただけます。
「この当麻曼荼羅の原寸大撮影については、機会を改めてこのブログで詳細に紹介したいと思っています。」

近づいてご覧いただくと、細かいつづれ織りのディテールが確認できます。
―――浜次郎さんパートでは貴重な文化財写真、ハールさんパートでは彼が日本の土地や文化へ向けたまなざしとどちらも見ごたえがありそうです。これから展示をご覧になるみなさまへ一言お願いします。
「写真家ハールさんの目に映った戦前から戦後の日本はどんな場所だったのか、当時の写真家と撮影技師の仕事を対比して見ていただいても面白いと思います。二人とも写真を仕事に同じ時代を生きたわけですが、これだけ違う仕事をしていたのかというところも面白いですよね。また佐藤浜次郎という人が文化財の撮影においていかに偉大な業績を残してきたか、その仕事をご覧になりながら自由に思いを巡らせていただけるとうれしいです。一言で写真といってもまったく違う、でもどちらも重要だということがきっとお伝えできるのではないでしょうか。」

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【開催概要】
便利堂コロタイプギャラリー秋季展
審光写場開設80周年記念 「佐藤浜次郎 ハール・フェレンツ 二人展」
2021年10月1日(金)~11月19日(金)
時間:10:00-17:00(全日12:00~13:00と水曜日はお休み)
入場:無料
場所:便利堂本社1Fコロタイプギャラリー
(京都市中京区新町通竹屋町下ル弁財天町 302)

ハールの写真集や映像作品(『天皇』『Arts of Japan』『Japanese Calligraphy』)もご自由に閲覧していただけます。
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