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コロタイプ技法解説:1
ゼラチン感光液の処方~ゼラチン版の作成 ⇒動画はこちら

この2012年9月8日・9日の2日間にわたって開催されますオルタナティブ・プロセス国際シンポジウム(Alternative Processes International Symposium 2012 Tokyo)に便利堂コロタイプも参加することになりました。
通称APISは、ボスティック&サリヴァン社の後援によりアメリカとヨーロッパで交互に開催されているオルタナティブプロセスをテーマとした国際シンポジウムです。1999年にサンタ・フェで第一回大会が開催され、以降アメリカではボスティック&サリヴァン、ヨーロッパでは英国王立写真協会ヒストリカルグループのテリー・キング氏のコーディネートで交互に開催されています。プログラムはオルタナティブプロセスに関する研究発表が中心となり、発表内容は歴史的研究や保存修復、各種技法の実際、新しい技術の応用まで多岐に渡っています。2012年、アジアで初めて日本で開催されます。
初日はカンファレンスとなっており、そのなかのデジタル・ネガについてのパネルディスカッションに便利堂からは工房長の山本がパネリストとして参加します。また、2日目には各種オルタナティブ・プロセスのワークショップが開催され、そのひとつとして、本邦初の本格的なコロタイプのワークショップを行う予定です! 是非興味のある方はご参加ください。定員8名ですので、お申し込みはお早めに! 前日のカンファレンス参加の方は見学していただけます。

ART KYOTO 2012 便利堂ブースでのコロタイプ体験
今年の4月に開催されたART KYOTO 2012にてレタープレス機によるプリント体験を初めて行い好評いただいたのですが(⇒そのときのもようはこちら)、今回予定しているワークショップはゼラチン感光液の調合からゼラチン版をつくり、参加者の撮影ネガを焼き付け、自らレタープレス機でコロタイププリントするという初めての試みです。現在それに向けて鋭意準備中ですが、その一環として今回は今まであまり紹介されていなかったゼラチン感光液の処方を中心に技法説明を詳解したいと思います。
ゼラチン感光液の処方
コロタイプ版は、ゼラチンに重クロム酸塩を添加したクロムゼラチン感光液をガラス板に流布して加温乾燥した版です。これに画像を焼き付け水分を含ませると微細な皺が版面に形成され(レチキレーション)、この皺が顔料を抱き込み、画像を転写することができます(⇒「コロタイプとは?」)。
コロタイプとはこのゼラチン版が命といっても過言ではないでしょう。どんな処方でゼラチン感光液を作るかによって得られるプリントの結果は大きく変化しますし、逆に言うと得たい画像の調子に合わせて処方するということになります。ですので、かつてたくさん存在したコロタイプ印刷所各社には、その数だけレシピが存在しました。
便利堂コロタイプ工房の現在の処方は下記のとおりです。
ゼラチン① 720g
ゼラチン② 720g
水 15000ml
重クロム酸アンモニウム 180g
重クロム酸カリウム 180g
硝酸鉛 30g
安息香チンキ 180ml
エチルアルコール 180ml
ゼラチン感光液の調合①:薬品
上に挙げた薬品を大別すると次の3つに分けることができます。
A)ゼラチン
B)感光材:重クロム酸アンモニウム、重クロム酸カリウム
C)助剤:硝酸鉛、安息香チンキ、アルコール

ゼラチン 2種類を各720g
感光液の主体はゼラチンです。かつてはコロタイプ用ゼラチンが存在しましたがコロタイプの衰退と伴い廃番となり、その後は写真用ゼラチンを使用していました。しかしこれも昨今のデジタル化の流れで適するものが入手困難となり、現在は新田ゼラチン株式会社さんの食用ゼラチンを用いています。
食用ゼラチンに移行するにあたっていろいろとテストを行いました。ゼラチンのコロタイプ適性は、その硬軟や粘度といったゼリー強度によるインキの着肉性、諧調、耐刷性などによって判断します。その結果、①粘度があり軟らかいゼラチン②粘度がなく硬いゼラチンの2種を同量ブレンドしています。

重クロム酸アンモニウム Ammonium Dichromate (NH4)2Cr2O7

180g

重クロム酸カリウム Potassium Dichromate K2Cr2O7

180g
重クロム酸塩それ自体は耐光性ですが、有機物と結合すると光に急速な反応を示します。コロタイプでは2種類の重クロム酸塩を用いますが、それぞれ違った性質を持っています。アンモニウム塩はカリウム塩にくらべ、感光性が高く暗反応での硬化も早い性質があります。一方カリウム塩はアンモニウム塩に比して感光性が緩やかなため保存性がよく、硬調になる性質があります。コロタイプが発明された頃はカリウム塩単体での処方でした。その後、2種類を同量処方するレシピが主流となったようで便利堂もそれに準じています。しかし、日本でもカリウム塩とアンモニア塩を10:69で処方している会社もあったことが昭和56年の記録に残っています。

硝酸鉛 Lead(Ⅱ)Nitrate Pb(NO3)2

30g
硝酸鉛は重クロム酸塩と混合すると黄色のクロム酸鉛を形成します。黄色く不透明にすることで、露光時における画像の焼度と印刷時におけるインキの盛り具合を見やすくする効果があります。硝酸鉛の使用は日本で考案されたとも言われ、欧州ではこれを用いないので透明の版です(⇒「第2回世界コロタイプ会議」参照)。

イギリスのゼラチン版

安息香チンキ Benzoin Tincture 180ml
安息香チンキの処方も日本で考案されました。ゼラチン感光液を塗布・乾燥すると感光膜の表面に径2㎜前後の「星」と呼ばれる円形の斑点がでます。これはゼラチンに含まれる脂肪分に起因すると考えられており、このままプリントを行うと、当然画像の中にこの斑点が出てしまいます。この星を出なくする効用が安息香チンキにあります。同量のエチルアルコールと一緒にゼラチン溶液に混合します。
ゼラチン感光液の調合②:薬品の混合

ゼラチン(中)、各重クロム塩(左)、硝酸鉛(右)
2種各720gのゼラチンを12Lの精製水に1時間浸し膨潤させ、さらに1時間湯煎をしてゼラチンを溶解します。
重クロム酸塩2種と硝酸鉛はそれぞれ1Lの精製水を加え同様に湯煎します。
水に長時間浸しすぎるとゼラチンが溶け出してしまいゼリー強度が落ち、使えないものになってしまいます。

ゼラチン溶液に重クロム酸アンモニウムを加える

さらに重クロム酸カリウム

アルコール(上)、安息香チンキ(下)

最後に硝酸鉛を加える

硝酸鉛を入れると卵液のような明るい黄色に変化

漏斗とさらしで一次濾過

この処方で3日~4日分のゼラチン感光液ができます

冷やしながら一晩置いて熟成さす。熟成は10時間以上必要とされ、版の耐刷性を強くする結果が得られる
下引き作業
ゼラチン感光液を一晩寝かせた翌日にゼラチン版の作成を行います。その下処理として下引きと呼ばれる作業を行います。下引きにはガラス面とゼラチン感光膜を接着させる中間層の役目があり、この処理をしないとゼラチンの膜面が剥がれてしまいます。下引きには水ガラスを主剤とします。これの添加物として卵白やゼラチンを用いる方法もありますが、最も安定しているのがビールです。ビールは気の抜けたものを用います。ブランドは問わないようですが、発泡酒はだめだったそうです(実験済)。

ケイ酸ナトリウム(水ガラス) Sodium Silicate Na2Si4O9

ビールと水ガラスの水溶液。水ガラス3ml+水30mlとビール30ml

下引き液の塗布

下引きが済んだガラス板を乾燥機の台に水平に調整しながら置く
下引きは液を盛る方法もありますが、便利堂では布で拭き引きで行っています。下引きが終わると、次工程のゼラチン感光液の塗布作業のために乾燥機のなかに水平を計りながら並べて置きます。
ゼラチン版の作成

前日から寝かせていた再びゼラチンを湯煎し溶かす

サポニン Saponin 13g+水180ml(3日分)
一晩置いたゼラチンを再び湯煎にかけ溶かします。これを2次濾過します。ガラス板に塗布する直前にサポニンを添加します。サポニンには界面活性作用があり、ゼラチンの泡立ちを抑える効用があります。

下引きの終わったガラス板にゼラチン感光液を流布します

均等に延ばします

気泡があれば突いて消す

最大寸法のガラス板(1200mm×600mm用)は二人がかりで行う

塗布が終わったガラス板は乾燥機に水平に並べる


乾燥機内を55℃で約1時間30分加温乾燥させる
下引きの終わったガラス板にゼラチン感光液を塗布します。作業室は25℃~30℃に保温してあります。少し温めたガラス板にほこりなどが混ざらないように気を付けながら流布します。弓引きする方法もありますが、便利堂では版を前後左右に振り、均等に流し塗ります。イギリスでは紙片で塗り延ばしていました。
気泡やほこりを除去して乾燥機に戻します。55℃で約45分加温し、さらに45分余熱で乾燥させます。常温に戻れば乾燥作業は終わり、暗箱に保存し翌日の露光作業に備えます。
⇒動画はこちら
次回技法説明は、製版~露光を中心に予定しています。

この2012年9月8日・9日の2日間にわたって開催されますオルタナティブ・プロセス国際シンポジウム(Alternative Processes International Symposium 2012 Tokyo)に便利堂コロタイプも参加することになりました。
通称APISは、ボスティック&サリヴァン社の後援によりアメリカとヨーロッパで交互に開催されているオルタナティブプロセスをテーマとした国際シンポジウムです。1999年にサンタ・フェで第一回大会が開催され、以降アメリカではボスティック&サリヴァン、ヨーロッパでは英国王立写真協会ヒストリカルグループのテリー・キング氏のコーディネートで交互に開催されています。プログラムはオルタナティブプロセスに関する研究発表が中心となり、発表内容は歴史的研究や保存修復、各種技法の実際、新しい技術の応用まで多岐に渡っています。2012年、アジアで初めて日本で開催されます。
初日はカンファレンスとなっており、そのなかのデジタル・ネガについてのパネルディスカッションに便利堂からは工房長の山本がパネリストとして参加します。また、2日目には各種オルタナティブ・プロセスのワークショップが開催され、そのひとつとして、本邦初の本格的なコロタイプのワークショップを行う予定です! 是非興味のある方はご参加ください。定員8名ですので、お申し込みはお早めに! 前日のカンファレンス参加の方は見学していただけます。

ART KYOTO 2012 便利堂ブースでのコロタイプ体験
今年の4月に開催されたART KYOTO 2012にてレタープレス機によるプリント体験を初めて行い好評いただいたのですが(⇒そのときのもようはこちら)、今回予定しているワークショップはゼラチン感光液の調合からゼラチン版をつくり、参加者の撮影ネガを焼き付け、自らレタープレス機でコロタイププリントするという初めての試みです。現在それに向けて鋭意準備中ですが、その一環として今回は今まであまり紹介されていなかったゼラチン感光液の処方を中心に技法説明を詳解したいと思います。
ゼラチン感光液の処方
コロタイプ版は、ゼラチンに重クロム酸塩を添加したクロムゼラチン感光液をガラス板に流布して加温乾燥した版です。これに画像を焼き付け水分を含ませると微細な皺が版面に形成され(レチキレーション)、この皺が顔料を抱き込み、画像を転写することができます(⇒「コロタイプとは?」)。
コロタイプとはこのゼラチン版が命といっても過言ではないでしょう。どんな処方でゼラチン感光液を作るかによって得られるプリントの結果は大きく変化しますし、逆に言うと得たい画像の調子に合わせて処方するということになります。ですので、かつてたくさん存在したコロタイプ印刷所各社には、その数だけレシピが存在しました。
便利堂コロタイプ工房の現在の処方は下記のとおりです。
ゼラチン① 720g
ゼラチン② 720g
水 15000ml
重クロム酸アンモニウム 180g
重クロム酸カリウム 180g
硝酸鉛 30g
安息香チンキ 180ml
エチルアルコール 180ml
ゼラチン感光液の調合①:薬品
上に挙げた薬品を大別すると次の3つに分けることができます。
A)ゼラチン
B)感光材:重クロム酸アンモニウム、重クロム酸カリウム
C)助剤:硝酸鉛、安息香チンキ、アルコール

ゼラチン 2種類を各720g
感光液の主体はゼラチンです。かつてはコロタイプ用ゼラチンが存在しましたがコロタイプの衰退と伴い廃番となり、その後は写真用ゼラチンを使用していました。しかしこれも昨今のデジタル化の流れで適するものが入手困難となり、現在は新田ゼラチン株式会社さんの食用ゼラチンを用いています。
食用ゼラチンに移行するにあたっていろいろとテストを行いました。ゼラチンのコロタイプ適性は、その硬軟や粘度といったゼリー強度によるインキの着肉性、諧調、耐刷性などによって判断します。その結果、①粘度があり軟らかいゼラチン②粘度がなく硬いゼラチンの2種を同量ブレンドしています。

重クロム酸アンモニウム Ammonium Dichromate (NH4)2Cr2O7

180g

重クロム酸カリウム Potassium Dichromate K2Cr2O7

180g
重クロム酸塩それ自体は耐光性ですが、有機物と結合すると光に急速な反応を示します。コロタイプでは2種類の重クロム酸塩を用いますが、それぞれ違った性質を持っています。アンモニウム塩はカリウム塩にくらべ、感光性が高く暗反応での硬化も早い性質があります。一方カリウム塩はアンモニウム塩に比して感光性が緩やかなため保存性がよく、硬調になる性質があります。コロタイプが発明された頃はカリウム塩単体での処方でした。その後、2種類を同量処方するレシピが主流となったようで便利堂もそれに準じています。しかし、日本でもカリウム塩とアンモニア塩を10:69で処方している会社もあったことが昭和56年の記録に残っています。

硝酸鉛 Lead(Ⅱ)Nitrate Pb(NO3)2

30g
硝酸鉛は重クロム酸塩と混合すると黄色のクロム酸鉛を形成します。黄色く不透明にすることで、露光時における画像の焼度と印刷時におけるインキの盛り具合を見やすくする効果があります。硝酸鉛の使用は日本で考案されたとも言われ、欧州ではこれを用いないので透明の版です(⇒「第2回世界コロタイプ会議」参照)。

イギリスのゼラチン版

安息香チンキ Benzoin Tincture 180ml
安息香チンキの処方も日本で考案されました。ゼラチン感光液を塗布・乾燥すると感光膜の表面に径2㎜前後の「星」と呼ばれる円形の斑点がでます。これはゼラチンに含まれる脂肪分に起因すると考えられており、このままプリントを行うと、当然画像の中にこの斑点が出てしまいます。この星を出なくする効用が安息香チンキにあります。同量のエチルアルコールと一緒にゼラチン溶液に混合します。
ゼラチン感光液の調合②:薬品の混合

ゼラチン(中)、各重クロム塩(左)、硝酸鉛(右)
2種各720gのゼラチンを12Lの精製水に1時間浸し膨潤させ、さらに1時間湯煎をしてゼラチンを溶解します。
重クロム酸塩2種と硝酸鉛はそれぞれ1Lの精製水を加え同様に湯煎します。
水に長時間浸しすぎるとゼラチンが溶け出してしまいゼリー強度が落ち、使えないものになってしまいます。

ゼラチン溶液に重クロム酸アンモニウムを加える

さらに重クロム酸カリウム

アルコール(上)、安息香チンキ(下)

最後に硝酸鉛を加える

硝酸鉛を入れると卵液のような明るい黄色に変化

漏斗とさらしで一次濾過

この処方で3日~4日分のゼラチン感光液ができます

冷やしながら一晩置いて熟成さす。熟成は10時間以上必要とされ、版の耐刷性を強くする結果が得られる
下引き作業
ゼラチン感光液を一晩寝かせた翌日にゼラチン版の作成を行います。その下処理として下引きと呼ばれる作業を行います。下引きにはガラス面とゼラチン感光膜を接着させる中間層の役目があり、この処理をしないとゼラチンの膜面が剥がれてしまいます。下引きには水ガラスを主剤とします。これの添加物として卵白やゼラチンを用いる方法もありますが、最も安定しているのがビールです。ビールは気の抜けたものを用います。ブランドは問わないようですが、発泡酒はだめだったそうです(実験済)。

ケイ酸ナトリウム(水ガラス) Sodium Silicate Na2Si4O9

ビールと水ガラスの水溶液。水ガラス3ml+水30mlとビール30ml

下引き液の塗布

下引きが済んだガラス板を乾燥機の台に水平に調整しながら置く
下引きは液を盛る方法もありますが、便利堂では布で拭き引きで行っています。下引きが終わると、次工程のゼラチン感光液の塗布作業のために乾燥機のなかに水平を計りながら並べて置きます。
ゼラチン版の作成

前日から寝かせていた再びゼラチンを湯煎し溶かす

サポニン Saponin 13g+水180ml(3日分)
一晩置いたゼラチンを再び湯煎にかけ溶かします。これを2次濾過します。ガラス板に塗布する直前にサポニンを添加します。サポニンには界面活性作用があり、ゼラチンの泡立ちを抑える効用があります。

下引きの終わったガラス板にゼラチン感光液を流布します

均等に延ばします

気泡があれば突いて消す

最大寸法のガラス板(1200mm×600mm用)は二人がかりで行う

塗布が終わったガラス板は乾燥機に水平に並べる


乾燥機内を55℃で約1時間30分加温乾燥させる
下引きの終わったガラス板にゼラチン感光液を塗布します。作業室は25℃~30℃に保温してあります。少し温めたガラス板にほこりなどが混ざらないように気を付けながら流布します。弓引きする方法もありますが、便利堂では版を前後左右に振り、均等に流し塗ります。イギリスでは紙片で塗り延ばしていました。
気泡やほこりを除去して乾燥機に戻します。55℃で約45分加温し、さらに45分余熱で乾燥させます。常温に戻れば乾燥作業は終わり、暗箱に保存し翌日の露光作業に備えます。
⇒動画はこちら
次回技法説明は、製版~露光を中心に予定しています。
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