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植田正治生誕100年記念に際してコロタイプポートフォリオ《童暦》の制作を振り返る

Posted by takumi suzuki on 27.2013 【今日のコロタイプ】    0 comments   0 trackback
故・仲田薫子さん寄稿文再録『いま、なぜ、「コロタイプ」で「童暦」なのか』

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誕生日の3月27日に開催されたバースデーイベント@代官山TSUTAYA ラウンジ“Anjin” 植田先生の大好物だったバタークリームのレシピを再現して作られたバースデーケーキ。よくできてます!

本年2013年は、写真家・植田正治(1913年3月27日生 - 2000年7月4日没)の生誕100年にあたり、各地で記念の展覧会などが開催されています。便利堂では、植田氏の代表作《童暦(わらべごよみ)》を2006年にコロタイプ・ポートフォリオを制作しています。関連展覧会のうち、下記の2展にこの《童暦》を出品しています。

植田正治 生誕100周年記念 特別展覧会 「初源への視線(まなざし)」
3月19日 - 4月14日/代官山・蔦屋書店2号館 1階 ブックフロア

植田正治 写真展 「遥かなる日記」
3月11日-4月14日/Beams福岡

従来、古美術や文化財の複製に主に用いてきたコロタイプですが、2004年に森村泰昌氏の《フェルメール研究2004:大きな物語は小さな部屋の片隅に現れる》のコロタイプバージョンの制作以来、コロタイプの原点である写真表現に再び取り組みだしました。今でもまだまだ認知度が低いコロタイプですが、当時は古典印画技法としてのコロタイプはほとんど知られていませんでした。

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植田正治 写真展 「遥かなる日記」 @Beams福岡 《童暦》以外にも貴重なオリジナルプリントが多数展示されています。

そうした中、ぜひ植田先生の作品をコロタイプでやりたいと思いたち、当時渋谷にあった植田正治写真事務所をたずねたところ、対応してくださったのが植田先生のお孫さんで代表を務められていた仲田薫子さんでした。このころ薫子さんは、植田先生がお亡くなりになったあとを引き継ぎ、先生の作品世界を国内外に発信すべく奮闘されている真っ最中でした。

コロタイプのことはご存じありませんでしたが、その表現力を評価いただきコロタイプ版《童暦》のプロジェクトがスタートしました。何度もテストプリントを重ね、薫子さんにも何回も京都にお越しいただきました。なんとか満足できる12作品のプリントが完成し、そのプロモーションのために寄稿いただいたのが今回再録した『いま、なぜ、「コロタイプ」で「童暦」なのか――著作権者の立場から』です。

薫子さんとは、企画のスタートから制作作業、完成からプロモーションと、数年にわたり多くの時間を共有させていただきました。しかしながら、《童暦》完成の2年後の2008年にまだ40歳代という若さでお亡くなりになりました。「どの作品がコロタイプの表現に合うか」と、二人で膨大な作品数の《童暦》全点に目を通しながら作品選びをしたことや、鳥取・島根に一緒に車でプロモーションに回ったことなども懐かしく思い出されますが、植田先生の生誕100年に際しなによりも強く感じるのが、当時コロタイプにご理解いただきコロタイプ版《童暦》という形に導いていただいたことが、現在の我々の礎になっているという薫子さんへの感謝の念です。


いま、なぜ、「コロタイプ」で「童暦」なのか――著作権者の立場から
仲田薫子(植田正治事務所代表、植田正治孫)

「今僕がやろうと思ってるのはね、果たしてそれがうまくいくかどうかわかりませんけども、古い技法のゴム印画。それを新しくやってやろうと思うんです。それはちょっと版画めいたところがございましてね、面白いなと思いましてね。まあ、果たして成功するかどうか……(『独特老人』後藤繁雄編集、筑摩書房刊より)」

京都・便利堂が古典印画技法のコロタイプを100年も前から現在まで、その形を変えることなく続けていることを私が知ったのは2004年のことで、しかもかつて写真表現の一つとして存在していたことを今の世に蘇らせて伝えたい、とうかがったときは大きな驚きを覚えました。植田正治が生きていたらどう反応したであろう、とすぐに考えました。しかし植田が写真を始めた1930年代、写真の印刷表現はすでにグラビアの時代であり、終生コロタイプと直接のご縁を持つことはなかったのです。生前の植田正治から便利堂という名前はおろか、コロタイプということばも聞いたことがなく、この時点ではお話をいただいても、「じゃあやりましょう」とお答えすることはできませんでした。


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不思議とマッチいています。@Beams福岡

かつて日本の写真家は、その時代の印刷技法の特性を踏まえたプリントを作り、写真は印刷されて初めて完成をみるのだ、という認識が当然であったのは、木村伊兵衛や土門拳の仕事の周辺からも、明らかなことだと思います。植田正治もまた、初期においてはグラビアの深いトーンにしびれ、70年代以降はオフセットの発達に目をみはり、印刷原稿としてのプリント作りをよくよく心掛けてきた一人でした。しかし一方では、かつてのピクトリアリストたちが丹精こめて作り上げる一枚の絵画のようなプリントへも、秘かな思いを抱いていたのです。

冒頭の言葉は1989年に植田正治が受けたインタビューの一部です。事実、植田はつねに新しい表現への模索と過去への回帰、繋ぎ合わせ、をくり返しました。常に表現への意欲をほとばしらせ、とにかく明けても暮れてもカメラに、印画に向き合ってきたのだと、あらためて思えてきます。

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植田正治《白い道》 (コロタイプ・ポートフォリオ《童暦》より)

あいにくこのインタビュー以降、植田はピグメントを用いた作品をその晩年に完成させることはありませんでした。それでも残された試作のプリントには、初期作品のモダンプリントや最新の習作に、「複露光」「覆い焼き」「焼きこみ」を幾度も試み、ときには黒い油絵具や顔料の多い鉛筆を重ねるという、その手の跡から「深みのある黒」へのこだわりが読みとれるものも少なくありません。わけても繰り返しプリントを試みていたのが「シリーズ<童暦>」のひとつ、「白い道」です。あらゆる印画紙を使って焼かれた、多様なパターンのその中に、奇妙な風合いを持った一枚がありました。それは温かみのあるセピア調で、一篇の詩を詠っているような、確かな力を持ったプリントです。独特のやわらかな階調と、穏やかで深いシャドーを持つコロタイプが思い浮かび、今回の企画をお願いするに至りました。

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立会中の仲田薫子さん(2006/3/28)

便利堂コロタイプ工房で試刷りを重ね、プリンターとことばを交わすうちに、プリンターご自身が、すでに写真の中に潜む多くの秘密を見いだし、作品の世界と対話を持っておられたことに気づきました。これは、写真のプリント作業が音楽の演奏行為に相当する、という見地においては、素晴しい指揮者、演奏家を得たということになると思います。精緻なコロタイプによって奏でられる、12章の組曲としてご覧いただけるのではないでしょうか。

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もともとの「童暦」は、ハイキーなトーンや強い焼き込みなどの印画テクニックを駆使して作りこんだプリントと、グラビア印刷による独特の強い黒で表現した写真集で知られ、そのシャドーはどこまでも強固な深みをもっています。この1971年刊行の作品集によって写真家・植田正治が発見されたことは、植田正治の年譜に刻まれている重要な事実です。

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植田正治 生誕100周年記念 特別展覧会 「初源への視線(まなざし)」 @代官山・蔦屋書店

2006年に便利堂のコロタイプで表現された「童暦」のシャドーは、顔料が繰り返し重ねられることによって生まれた、やわらかな深みのシャドーです。結果的に私たちは、1960年代という時代のスピリットが生んだ「名作」とはまったく別のものを出現させてしまうことになりました。しかしそこには、植田正治の表現が目指すものは見失われてはおらず、むしろ、植田の70年にわたる写真人生に一貫していた内なる世界のひとつを、新しい解釈で語ることができたのではないかと思うのです。
植田正治は既にこの世にはいません。しかし、その作品世界はこれからの時代に向けて、常に新しく展開され続けられるべきであると、このコロタイプ・プリント制作を通して確信した次第です。(2006/6/12)

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コロタイプ・ポートフォリオ《童暦》 限定30部


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【コロタイプの過去・現在・未来。創業明治20年の京都 便利堂が100年以上にわたって続けているコロタイプ工房より最新の情報をお届けします】
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