Loading…
技法解説2:秘技!ガラス乾板 膜面返し!
乾板の修復にも応用できます!

キャリア半世紀の技を披露してくれた竹口さん
しばらくぶりのコロタイプ技法解説の更新です。今回は、「ガラス乾板の膜面返し」です。最近では、写真といえば画像データを指すことが一般的となってしまい、アナログフィルムになじみのない方も多くなってしまったかも知れません。ましてや「ガラス乾板」となると、見たこともないという方がほとんどかと思います。

便利堂写真原版庫(「ガラス乾板およびコロタイプ原板」の部) その数、一説には数万点と忌まれていますが、全貌不明。
「ガラス乾板」は、「写真乾板」ともいい、感光する写真乳剤を塗ったガラス板のことです。ネガフィルムが普及する昭和初期まで一般的に使用されていました。コロタイプ技術が輸入された明治時代の写真撮影はこの「ガラス乾板」で行っていました。便利堂にも戦前までに撮影したガラス乾板が数多く保存され、その多くは「コロタイプ原板」となっています。この「ガラス乾板」を「コロタイプ原板」に作り替える技術が今回ご紹介する「膜面返し(膜返し)」の職人技です。

昔のコロタイプ原板 撮影された6カットのガラス乾板から「膜返し」を行い、一枚のガラス板に集版したもの(膜面から見る)
ガラス乾板の乳剤(感光材)が塗布された側を「膜面」といい、ガラス板側を「ベース面」といいます。撮影されたガラス原版は、ベース面から見ると、像が正しく見えます(正画)。つまり膜面から見ると「反転画(鏡像)」となります。しかし、コロタイプの場合、一度ゼラチン版に焼き付けてから紙にプリントしますので、「膜面で正画」になっていなければなりません(下図参照)。

「膜面が正画」とするために、ガラス乾板から膜面をはがし、反転させて再度ガラス板に張り付ける必要があります。これが「膜返し」という作業です。本などの印刷のときは、1頁ごとのレイアウトも同時に行います(前掲「古い乾板」の図版参照)。大変手間のかかる作業ですが、当時はコロタイプには必須の作業でした。
今では行う必要のなくなった工程ですが、割れた乾板などの修復にも応用できる技術です。また、膜面をセロファンで覆うため酸化しにくく、結果的に画像の長期保存に適したものとなりました。こうした膜面返し作業によってコロタイプ原版となった代表的なものが、昭和10年に撮影され、約80年経過した今も良好な状態で保存されている「法隆寺金堂壁画原寸大フィルムほか一式」です。⇒詳しくは「法隆寺金堂壁画ガラス乾板保存プロジェクト」を参照。
今回は、キャリア50年のベテラン職人に、失われつつあるその秘技を披露してもらい記録としました。
ガラス乾板写真の膜返し 2013年7月11日実施
[道具]
・バット(ホルマリン水溶液・フッ化水素水・水洗用)
・眼鏡、マスク、手袋、割り箸(フッ化水素用)
・ビン(ゼラチン用)
・やかん(ゼラチン湯煎用)
・筆(ゼラチン塗布用)
・ピンセット(竹orゴム)
・定規
・カッター
・セロファン
・スクイージ
・ガラス板
[薬品]・ホルマリン
・フッカ水素
・ゼラチン

フッ化水素
[方法]

撮影された状態のガラス乾板。膜面から見る。わかりにくいが、左上の文字が反転しているので、「膜面で反対画」となっていることがわかる。
①ガラス乾板写真をホルマリンに漬ける
ホルマリン 1 : 水 2 = ホルマリン400cc : 水800cc
膜面を剥離したときに伸びてしまわないための硬膜処理。15時間位浸漬する
②水洗 (流水で2~3分)

③乾燥 5時間

④ゼラチン3cc位を200cc位の水に入れ、膨潤させておく
⑤フッ化水素液を作る (ゴム手袋・めがね・マスクを着用)
ぬるま湯(31~32℃位)1500ccに50%濃度のフッ化水素 60滴(2.4cc位)。0.1%程度か
割り箸でかき混ぜる

⑥ガラス乾板のガラス面から膜面が剥離しやすいように、定規とカッターを使い、写真の周囲を切る

⑦フッ化水素液⑤にガラス乾板を浸ける (フッ化水素液を弱く湯煎すると剥離しやすい)
今回は30分以上かかった。新しいガラス乾板の場合1~2分で剥離する

⑧膜がはがれてくるまでの間に、膨潤したゼラチン液④にさらに水500cc位加え、ビンをやかんに入れ湯煎して、薄いゼラチン液を作る

⑨セロファンを軽く水で濡らす (水をつけすぎない)



⑩ピンセットで浮かび上がった膜面をつまみ上げ、水のバットに移し、流水で水洗いする
(膜面が大きい場合は、硫酸紙に載せて水のバットに移す)

⑪新しいガラス板に筆でゼラチン液を塗る



⑫膜面をひっくり返して、新しいガラス板に載せ指でそっと伸ばし拡げる


⑬ぬれたセロファンを膜面⑫の上に拡げ、スクイージで中の空気を押し出す


おみごと!
文字が右上になり、膜面で正画になっていることがわかる
割れた乾板の修復に応用する場合は、破片から同様に膜面を剥離して新しいガラス板に(反転せずに)つないで貼り合わせれば、一枚の原板に復元することができます。現在ではなかなか扱い慣れない代物となったガラス乾板ですが、往時を記録する貴重な文化財として、適切な保存管理が課題です。こうした技術が伝承され、活用される機会が増えればいいなと思います。
工程の記録および写真提供:西城 浩志氏

キャリア半世紀の技を披露してくれた竹口さん
しばらくぶりのコロタイプ技法解説の更新です。今回は、「ガラス乾板の膜面返し」です。最近では、写真といえば画像データを指すことが一般的となってしまい、アナログフィルムになじみのない方も多くなってしまったかも知れません。ましてや「ガラス乾板」となると、見たこともないという方がほとんどかと思います。

便利堂写真原版庫(「ガラス乾板およびコロタイプ原板」の部) その数、一説には数万点と忌まれていますが、全貌不明。
「ガラス乾板」は、「写真乾板」ともいい、感光する写真乳剤を塗ったガラス板のことです。ネガフィルムが普及する昭和初期まで一般的に使用されていました。コロタイプ技術が輸入された明治時代の写真撮影はこの「ガラス乾板」で行っていました。便利堂にも戦前までに撮影したガラス乾板が数多く保存され、その多くは「コロタイプ原板」となっています。この「ガラス乾板」を「コロタイプ原板」に作り替える技術が今回ご紹介する「膜面返し(膜返し)」の職人技です。

昔のコロタイプ原板 撮影された6カットのガラス乾板から「膜返し」を行い、一枚のガラス板に集版したもの(膜面から見る)
ガラス乾板の乳剤(感光材)が塗布された側を「膜面」といい、ガラス板側を「ベース面」といいます。撮影されたガラス原版は、ベース面から見ると、像が正しく見えます(正画)。つまり膜面から見ると「反転画(鏡像)」となります。しかし、コロタイプの場合、一度ゼラチン版に焼き付けてから紙にプリントしますので、「膜面で正画」になっていなければなりません(下図参照)。

「膜面が正画」とするために、ガラス乾板から膜面をはがし、反転させて再度ガラス板に張り付ける必要があります。これが「膜返し」という作業です。本などの印刷のときは、1頁ごとのレイアウトも同時に行います(前掲「古い乾板」の図版参照)。大変手間のかかる作業ですが、当時はコロタイプには必須の作業でした。
今では行う必要のなくなった工程ですが、割れた乾板などの修復にも応用できる技術です。また、膜面をセロファンで覆うため酸化しにくく、結果的に画像の長期保存に適したものとなりました。こうした膜面返し作業によってコロタイプ原版となった代表的なものが、昭和10年に撮影され、約80年経過した今も良好な状態で保存されている「法隆寺金堂壁画原寸大フィルムほか一式」です。⇒詳しくは「法隆寺金堂壁画ガラス乾板保存プロジェクト」を参照。
今回は、キャリア50年のベテラン職人に、失われつつあるその秘技を披露してもらい記録としました。
ガラス乾板写真の膜返し 2013年7月11日実施
[道具]
・バット(ホルマリン水溶液・フッ化水素水・水洗用)
・眼鏡、マスク、手袋、割り箸(フッ化水素用)
・ビン(ゼラチン用)
・やかん(ゼラチン湯煎用)
・筆(ゼラチン塗布用)
・ピンセット(竹orゴム)
・定規
・カッター
・セロファン
・スクイージ
・ガラス板
[薬品]・ホルマリン
・フッカ水素
・ゼラチン

フッ化水素
[方法]

撮影された状態のガラス乾板。膜面から見る。わかりにくいが、左上の文字が反転しているので、「膜面で反対画」となっていることがわかる。
①ガラス乾板写真をホルマリンに漬ける
ホルマリン 1 : 水 2 = ホルマリン400cc : 水800cc
膜面を剥離したときに伸びてしまわないための硬膜処理。15時間位浸漬する
②水洗 (流水で2~3分)

③乾燥 5時間

④ゼラチン3cc位を200cc位の水に入れ、膨潤させておく
⑤フッ化水素液を作る (ゴム手袋・めがね・マスクを着用)
ぬるま湯(31~32℃位)1500ccに50%濃度のフッ化水素 60滴(2.4cc位)。0.1%程度か
割り箸でかき混ぜる

⑥ガラス乾板のガラス面から膜面が剥離しやすいように、定規とカッターを使い、写真の周囲を切る

⑦フッ化水素液⑤にガラス乾板を浸ける (フッ化水素液を弱く湯煎すると剥離しやすい)
今回は30分以上かかった。新しいガラス乾板の場合1~2分で剥離する

⑧膜がはがれてくるまでの間に、膨潤したゼラチン液④にさらに水500cc位加え、ビンをやかんに入れ湯煎して、薄いゼラチン液を作る

⑨セロファンを軽く水で濡らす (水をつけすぎない)



⑩ピンセットで浮かび上がった膜面をつまみ上げ、水のバットに移し、流水で水洗いする
(膜面が大きい場合は、硫酸紙に載せて水のバットに移す)

⑪新しいガラス板に筆でゼラチン液を塗る



⑫膜面をひっくり返して、新しいガラス板に載せ指でそっと伸ばし拡げる


⑬ぬれたセロファンを膜面⑫の上に拡げ、スクイージで中の空気を押し出す


おみごと!
文字が右上になり、膜面で正画になっていることがわかる
割れた乾板の修復に応用する場合は、破片から同様に膜面を剥離して新しいガラス板に(反転せずに)つないで貼り合わせれば、一枚の原板に復元することができます。現在ではなかなか扱い慣れない代物となったガラス乾板ですが、往時を記録する貴重な文化財として、適切な保存管理が課題です。こうした技術が伝承され、活用される機会が増えればいいなと思います。
工程の記録および写真提供:西城 浩志氏
- 関連記事
-
- 技法解説4:コロタイプインキと画像保存性
- 技法解説3:コロタイプ印刷機とプリントサイズ
- 技法解説2:秘技!ガラス乾板 膜面返し!
- コロタイプ技法解説:1
とても魅力的な記事でした。
また遊びに来ます!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます! 今後ともどうぞよろしくお願いします!
trackbackURL:https://takumisuzuki123.blog.fc2.com/tb.php/44-1f7aaead